【2009.04.10配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
百貨店経営者は、衰退の理由をネットビジネス、郊外型ショッピングモール、エキナカ、アウトレットなど外部要因に挙げています。しかしそれは言い訳に過ぎないと私は思っています。
百貨店は消化仕入れ制度、派遣店員制度、最低売上げ保証制度を構築した時点で衰退の道を選んでしまったのです。百貨店では自前のショップ以外はすべてテナントビジネスです。
消化仕入れとは売れたら仕入れる制度のことです。派遣店員とは、テナント側で給料を負担して店員を派遣する制度のことです。最低売上げ保証制度とはテナントショップの売上げがいくらであろうともテナントは百貨店に最低保証額を支払う制度のことです。
ノーリスクですべてはテナント任せの業界体質は、社内から緊張感を失ってしまったのです。
百貨店は器を用意し集客を考えるだけの機能となっていわば縁日に似たビジネスモデルとなってしまいました。今でも集客方法は北海道物産展、九州物産展、京都物産展など物産展に頼っているのが現状です。
縁日は雨が降れば客足は止まります。縁日には目的買いが無いからです。百貨店も先月は雨の日が多く客足が伸びなかったなどと社内会議で言い訳が通用する業態になってしまっています。顧客が百貨店に多くの目的をもたないからです。私もついで買いが多い。どこどこへ行ったからついでに百貨店に寄って買い物をしてきたという感じです。
百貨店の経営幹部が気にするのは、最寄りの駅にエキナカができたとか、新しい商業集積ができたとか、郊外にイオンができたなど外部要因ばかりです。できればすぐに視察して、あれは脅威だとか、あれではダメだと言っているだけです。
百貨店は売れなくなると店舗改装を行い、高級ブランドを入れます。いや、これまではそうやってきました。この二つは困ったら開けなさいと魔法使いから貰った魔法の小箱のようでしたが、いまは魔法の小箱を開けても煙さえ出ません。だから百貨店は魔法の小箱を失って困った時に何をしたらよいのか方法さえわからないでいる状況です。
高度経済成長時代には、誰もがみすぼらしい自宅と比べて百貨店は夢のような豪華な存在でしたが、いまは豪華な店には慣れてしまっています。4800円のフランス料理ランチで一流の雰囲気とサービスを体験できますし、ホテルも百貨店以上に豪華です。豪華には日本人はとうの昔に慣れてしまっているのです。
百貨店が衰退しているのは、テナントを集めてノーリスクの安定経営に誰もがあぐらをかいてしまったところにありました。時代環境の変化に経営的に対応しないで、店舗改装とブランドを入れることしか考えられずに時間が経過してしまったことが初めの失敗でした。しかし私の観点では本質は別のところにもあります。
百貨店の実情を知らない人にとっては、百貨店は優れた顧客政策を持っていると考えがちでしょうが実際はそうではありません。
百貨店は名前と顔がわかる優良顧客のうち、一握りの人との関係を深めてはいますが、大半の顧客との関係はまったくできていないのです。
1930年代にアメリカで創案された関係を切断する顧客を発見する分析であるRFM分析を使って、たくさん買った顧客にDMを送り続け、買わなくなるとDMを送らないやり方で売り込みだけのDMを送ってこれが顧客戦略と思っているところが大部分の百貨店の実態なのです。
「うちはよい顧客を持っている」との自慢は半分正しく半分は間違っています。
顧客との関係を深めていない限り、データベースにいる顧客はよい顧客でも悪い顧客でもありません。関係を深めてこそよい企業にとってのよい顧客になるのです。
百貨店は最寄り品店なのか、買回り品店なのか、専門店なのか。
私は以前、伊勢丹新宿店の人とこんな議論をしたことがあります。彼は、うちは高級専門店を目指すと言っていました。
最寄り品店とは最寄りの店で購入するような商品を販売している店舗のことです。買回り品店とは品質や価格を比較するために買い回る商品を販売する店舗のことです。専門店とはブランドやデザイン、素材などに特化した高額品を扱う店舗のことです。
伊勢丹新宿店の成功は首都圏をエリアとした高級専門店を目指した成果です。
この店は入店客数と購入客数の差が極めて少ないことで知られています。つまり顧客は買うと目的をもって来店しているのです。
以前NYのラルフローレン本店へ出かけたことがあります。この店はもちろん専門店です。
階段をわざわざ作ってあって顧客はこの階段をわざわざ登るのです。顧客は購入する目的をもってきた証拠を、この階段を登ることによって店に示すわけです。次に大きく重たいドアが待っています。そこにはドアーマンがいて、うやうやしく重いドアを開けてくれます。
買う意志がなければくぐりぬけることができないドアでもあります。
中に入ると販売員がずらりと並んでいて、すぐに何かお手伝いすることはありますかと声をかけてきます。専門店だからです。顧客はYesと言って希望を出して商品を選んでもらいます。日本ではショップに入ってくる顧客に声をかけると顧客は逃げてしまいます。
つまり多くの百貨店は専門店になっていない証拠なのです。
伊勢丹はNYの高級百貨店ブルーミンデールや他の専門店を研究し尽くして新宿店をブラッシュアップさせたのですが、この努力のおかげで雨の日でも客足が落ちない百貨店作り、つまり顧客は買う目的を持って来店するから、雨が降ろうと風が吹こうと顧客が来店する店に変えて(変わって)いったわけです。他の多くの百貨店が雨の日は客足が、がたんと落ちるのは、来店客数と購入客数の差が大きいのは、縁日のビジネスモデルのまま、つまりはテナント業になって、顧客に対して緊張感溢れる経営をしてこなかったからなのです。駅ビルとの違いは店内が豪華であることだけとなってしまっているのです。
しかし2008年危機以来、伊勢丹新宿店も含めて売上げの落ち込みは厳しいです。
今年は年間賞与が1カ月を切る見込みと百貨店に勤める知友からメールが入るありさまです。
なぜ伊勢丹新宿店も含めてこれほどまでに業績が落ち込んでいるのでしょうか。
内部要因は、顧客と一緒に顧客の価値を実現していないこの一点です。
百貨店は売る技術を磨いて商品をブラッシュアップする技術にのみ専念し、顧客に対しての根本的な方針を持っていません。商品をすてきに見せる技術には勝っていても、顧客と関係を深めて価値を実現するプロセスを構築して形式知化して、顧客と共生・共歓の関係を実現することができていません。
百貨店は自らをテナント業である規定している限り、生き残りをかけた長期的なデフレ基調で流れていく日本経済下にあって、一緒に流されていく運命から抜け出ることはできません。
商品を磨いても顧客は商品をさほど必要としていないのです。豪華な店舗内装も慣れてしまっているのです。
もっと言いますとVMDは見せかけの価値づくりです。ブランドも見せかけの価値作りです。
デザイナーやパタンナーが構築してきた本来の価値を正しく伝えるには顧客と学習関係を構築しなければ実現できません。それを百貨店はやってこなかったのです。本当の価値を知らせずに見せかけの価値を作り上げてきたのです。店舗改装もその一つです。
伊勢丹新宿店の落ち込みを多くの人たちは不況のせいにしますが、私は成熟社会における少子高齢社会、つまりは需要が常に下がり続ける恒常的なデフレ社会が到来している日本経済で、商品をいかに磨こうとも顧客は感心を持たないように価値を変えた結果であると思います。
百貨店は顧客に対する行動計画を持った根本的な理念を持ち備えていません。
うちは富裕層を抱えていると言っても、関係が深まっていなければDBにいる顧客に買い物を勧めても顧客は動きません。
RFM分析では顧客を育てることも維持することもできないのです。RFM分析は関係切断顧客の発見分析なのですから。
だからテナント業でいる限り、百貨店は衰退していきます。衰退を不況や外部要因のせいにしていますが、根っこは顧客に対する原理原則が無い自社の経営に存在することに気づかなければならないのだと思います。
日本の百貨店にとっては伊勢丹新宿店がゴール目標ではありません。時代はもう一つ先に進んでしまったのです。2008年危機が近未来の姿を垣間見せてくれました。今の2008年危機による百貨店の売上げ落ち込みは近未来の姿なのです。不況は好況に戻りますが、恒常的なデフレ基調は今後とも継続するでしょう。だから経済が好況に戻っても百貨店が変わらない限り、百貨店が好況に沸くことは無いでしょう。これまでノーリスクで安定経営を実現してきたのですが、時代が変化することによって安定が不安定要素に変わります。
顧客に対して根本的な方針を示し、文書化し、これを宣言し、行動基準として行動を具体的な活動にしていく。そして顧客と関係を深めて顧客の価値観を実現し、共生共歓のビジネス活動を具体化していく以外に生き残れることはないと思います。
テナント業でいる限りこれを実現できません。百貨店は、テナントと一緒に、百貨店の顧客に対して価値を実現する仕組みを構築して共生・共歓の社会を作る以外に生き残る術はないと思っています。
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