【2009.11.06配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
日本経済新聞11月3日朝刊に掲載された資生堂前田新造社長の言葉はインパクトがあります。
下記に全文を掲載しました。
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日本の生活・消費関連市場は少子高齢化社会に直面している−という問いに前田社長は「人口減で顧客が減るという前提に立ち、事業モデルをどう組み替えるかが日本企業共通の課題となっている。解を探るには、顧客とどれだけ深くよい関係を保つかに尽きる。
当社は美容部員や営業担当者の売り上げノルマを撤廃し、顧客の再来店率などで評価する方法に改めた。顧客との関係つくりの重要性に目を向けさせるためだ。きめ細やかな顧客対応は、世界市場で成長するための競争力にもなる」と答えています。
前田社長の発言内容はカスタマープリンシプル思想です。
成熟化社会、少子社会、超高齢社会に対応するには経営パラダイムを変えるかしかないのです。いまの経営パラダイムはヒト・モノ・カネの3要素経営でこれに顧客を輪得た経営4要素体制を確立することです。
顧客政策とは顧客と関係を深める経営体制を構築し顧客にアクションをすることです。関係が深まれば顧客は再来店します。
さて、重要な点はこれからです。資生堂には1万人を超える美容部員と、美容部員を管理統括しながら商品を販売する営業担当者が組織上位にいますが、美容部員だけではなく営業担当者まで売り上げノルマを外してしまったことです。
その理由を前田社長は、「顧客との関係つくりの重要性に目を向けさせるためだ」。と答えています。そして「きめ細やかな顧客対応は、世界市場で成長するための競争力にもなる」とも答えています。
私たちもカスタマープリンシプルを企業に導入する上での最大のネックは人の意識改革です。
意識が変われば考えが変わり、考えが変われば行動が変わる。行動が変わると結果が変わるとよく言います。それでは人の意識が変わらない場合にはどうすればよいでしょうか。
資生堂は人事評価基準を売り上げノルマから顧客のリピート率などの評価に変えました。
なぜ?意識改革をするためです。
人は自分の脳に支配されている存在です。よく自分の考えが大事だといいますが自分とは脳のことです。脳が長い間の体験に適合するようになって、それ以外をイレギュラーとしているのです。
私は先日、暗闇の横断歩道橋を降りていて左足首の捻挫をしました。設計にミスがあったのか、工事にミスがあったのかは知りませんが、最後の階段段差に3センチほど狂いがあったのです。
たったそれだけのことです。脳はこれまでの段差をインプットして足に伝えておりましたからあるべき位置に次の階段はあることが認識されていました。なんら問題なく順調に階段を下りていました。ところが最後の階段はその場所に段はなく、想定した段より3センチ低いところにありました。たった3センチの誤差で脳はパニックになりました。それが捻挫の正体です。
このように長い経験上のリズムと異なるリズムを脳は嫌います。だから脳は新しいことを知りたいくせに自分のことになると拒否するのです。
脳には生きたい、知りたい、仲間になりたいとの3つの機能があるそうで、この考え方で人間社会は構築されているそうですが、新しいことを知りたい反面、新しいことは体験がなく失敗してしまうかもしれないとする防衛本能が働くのかもしれません。脳が持つ3つの本能のうち、生きたいという働きが新しいことを拒否するのでしょう。
資生堂の前田社長は賢明です。評価を変わることで意識改革を行いました。
ですからこうしたことが分からない方は資生堂の改革を人事評価手法の改革だといいますが、本質は顧客に対する根本的な方針(カスタマープリンシプル)を構築して展開するカスタマープリンシプル活動です。
私はもう一つ別の見方をします。資生堂は前田社長自身の評価を、売り上げノルマを捨てて、カスタマープリンシプル活動の成果に置いたことです。
社長が経営に目標売り上げとする概念を捨ててしまったことです。社長が目標利上げを捨てなければ部下も捨て去ることはできません。
拙著、「今後50年を生き抜く新・経営パラダイム」に、資生堂の事例が16ページを割いて詳しく掲載されています。しかし取材の段階では、ノルマがないのは美容部員だけで、営業担当者にはノルマがあるとのことでした。それから数ヶ月で営業担当者の営業ノルマも全廃してしまったことになります。前田社長は自分の脳をコントロールできるのかも知れません。
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