【2009.11.20配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
いま、日本中の企業が大転換期を迎えています。時代は恐ろしいスピードで大転換を遂げているので、多くの企業経営者はこのスピードに付いていけません。経験によって思考方法が整理されている保守的な人間の脳が、大転換期についていけないでいることがその要因です。
すると脳にとって頼りになるものは過去の成功体験だけです。結論を先に言いますと成功体験は古い時代のものですから、成功モデルが新しい時代のパラダイムに合致するわけはありません。成功体験をトレースするほどに、社員は疲弊感に襲われていくだけで成功は実現しません。いまはこんな時代ですからどこの企業でもやっていることは二つです。
一つはコスト削減に徹すること。二つは気を取り直して過去の成功モデルを精緻に行うこと。そして二つ目はこのような転換期にはいくらやっても成功しませんから、コスト削減に大鉈を振るうことに特化していきます。この結果企業はどうなるかといえば諦めです。
何に対する諦めでしょうか。コモディティ化することへの諦めです。
大転換期とは何でしょう。それは超成熟社会における少子超高齢社会の到来が時代背景にあります。そして明治以来続いた官僚による政治主導体制が壊れたことです。この二つが日本の政治経済における社会的な大転換期の背景です。
こうした時代の転換がありながらメーカーはつくり手の発想からまったく抜けることが出来ません。「よい製品をつくれば」売れるのだという思想がからだ中に染み込んでいます。
よい製品をつくればというところが落とし穴です。
よい製品とは何でしょうか。話は広がっていきます。
メーカーは協業との競争に勝つためにコストとスペック、意匠(デザイン・ユーザビリティ)などに傾注します。この成果がよい製品をつくったことになると信じています。
しかしメーカーは製造した製品を使っていません。メーカーは製造した製品を販売しメンテナンスをしているだけです。取扱説明書には製品に関する質問や故障問い合わせの電話番号を明記して待機する態勢をつくります。
一方顧客は、購入した製品を毎日使用します。製品を使って出来上がる価値、例えば工作機械なら加工製品の品質、性能、ランニングコスト、操作性能、安全性、ユーザビリティなどを詳しく知っているのは顧客です。
顧客は一社だけでなく他社製品との比較もしています。同業同士の交流で他社製品の情報を耳にし、時には実機を見学することもあります。そしてベテラン作業員ともなれば何十年も製品を使い続けています。
さあ。どちらが製品のプロといえるでしょうか。つくる側ですか。使う側でしょうか。
私は毎日使っている顧客のほうが製品のプロだと思います。ましては購入者、つまりはお金を支払い側ですから、購入決定する権限を持った製品のプロが顧客であるわけです。
飛び抜けた製品が誕生することは50年に一回か100年に一回というレベルでしかありませんから成熟社会では製品の差は付かないのが現状です。
しかし、顧客にも弱点はあります。顧客は使用者としての体験を積み重ねることによって製品のプロになったわけで、機械の構造や論理的なもの、設計の理念、開発の理念などは分かりません。使用者としてのプロであって歴史的な考察、スペック、構造、設計開発のプロではないわけです。
メーカーは開発時にはコンセプトを定め、協業製品とも比較し、自社のコアコンピュタンスを磨き上げて設計計画をします。その背景には研究所による基礎研究の成果などが裏打ちされているわけです。この価値が顧客には伝わっていません。
つまり、つくり手が持っている価値と使い手が感じている価値との間には大きな乖離といいますか、埋められない溝があるのです。埋めない溝を持ったまま、関係は進んでいます。
両者間に横たわる溝を埋める努力をするのが成熟時代におけるメーカーの役割です。
メーカーが自社の価値を実現したいなら、メーカーは顧客が求める価値を発見して、顧客の価値を実現することに傾注しなければなりません。
顧客の価値を実現するプロセスとメーカーが求める価値はここで始めて合致します。
ところが両者間に横たわる深い溝を埋めない限り、誤解は解けませんからメーカーは顧客の価値を発見できず、したがって顧客の求める価値を実現することが出来ません。
お分かりになるでしょうか。
日本のメーカーがコモディティ化してしまうと苦境にあるのは、つくり手がつくり上げた価値と使い手がつくり上げた価値を一体化するプロセスを行っていない結果なのです。
メーカーはこのプロセスの存在を気付いていません。なぜなら製品のプロは自分だけであるといまだに高度経済成長時代に培ったメーカー発想意識から抜け出せないでいるからです。
成果とはプロセスの結果であるのですから、意地悪く言えば日本のメーカーが苦境にあるのはいままで持続してきたプロセスの成果です。
成熟化した時代では、カスタマープリンシプルにおける情と理の対話を続けることです。
理の関係を促進して顧客とメーカーの価値を相互が学習し理解しあう関係を構築すること。
このプロセスを営業に組み込むかどうかに掛かっているのです。
顧客との対話についてはここでは述べません。このメールマガジンをお読み下さっている方々は十分に理解されているからです。
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