【2009.11.27配信】
ブレアコンサルティングの服部隆幸です。
毎週、金曜日にお届けしているメールマガジンは200号を迎えました。皆様のご愛顧に感謝申し上げます。
超成熟社会が私たちの社会です。人々は商品に成熟しています。その上、65歳以上の高齢者が大変な勢いで増えています。リーマンショック後、金融大臣であった与謝野氏は当時「日本への影響は軽微である」と語っていました。日本は失われた10年を経験しているのでこの時代に培ったノウハウを世界に指導するとまで豪語していましたが、いまはアメリカ、ヨーロッパ、中国との比較では日本だけが株価も低迷し、購買力は増えずに低迷をしています。また、円高になって株価は下がり不況二番底がくるのではないかと怯えています。
日本ではこうした社会的経済的なショックが起こるたびに、心がすくんでしまい将来の不安から消費を抑えてしまいます。需要が小さくなっていき、企業はどうすればよいのでしょうか。
国は、500兆円とも言われている大半は高齢者が保有している個人資産を、使ってくれなければやがて多額の相続税が国庫に入るからこのお金を当てにしているのではないかと、うがった見方をしていますが、さて、マーケティングでこの時代をどう生き抜くべきでしょうか。
日本企業は顧客のことを「売り込み先」と呼んでいたことがあります。この言葉は、企業では普通に使われていました。売り込み先を探す、売り込み先が見つかった、売り込み先に行くなどと営業関係の人は普通に売り込み先と呼んでおりました。
ところがそれはおかしい。売り込むのではなく顧客は買う人なのだとする考えが出てきました。
もう少し分かりやすく言うと売り込むのではなく買ってもらえるように売り方を変えるということです。
伊勢丹は売り場といわずにお買い場といいます。伊勢丹と統合した三越も伊勢丹に倣ってお買い場というようになりました。
伊勢丹は商品を際立たせるVMD(ビジュアル・マーチャン・ダイジング)手法に優れています。日本ではあまり関心かない時代に、いち早くVMDに注目をして本家であるNYブルーミンデール百貨店に視察団を送り、研究をし尽くしたのです。
このVMDも、顧客は買う人だから買ってもらいやすくするために商品を美しく、欲しいと思わせるように陳列するための技術であったと、振り返るとそう感じます。
けれども、顧客は売り込み先とする定義も、購入する人とする定義も本質的には変わりません。購入する人に対する売込みの方法であるといってしまえばそれまでのことです。
伊勢丹がお買い場と呼んでいる売り場は、他の百貨店が売り場と呼んでいる売り場とどこが違うのでしょうか。見た目では同一です。顧客第一主義と同じく意識改革を狙って付けた名称なのかもしれません。
ここではお買い場の名称についての是非を論議する場ではないので、話を先に進めます。
顧客とは商品を購入する人ですが、購入することが目的ではなく商品を使用することが目的ですから、顧客とは商品を使用する存在であると定義できます。
顧客は商品を使用することで商品のプロになります。それが成熟化の一要因です。
毎日のように使用すれば誰でも商品の優劣や長短を分かるようになりますし、感動は失せて商品に慣れていきます。その上商品そのものが成熟をしています。
成熟化社会とは商品に感動を持たない人で溢れている社会です。企業も人もです。
私は池袋サンシャイン通りにあるビックカメラのアウトレットに行って驚きました。店内は大混雑をしています。何しろ家電が新製品よりも20%から50%は安いというのです。
顧客は例え1年前に発売された商品でも、自分が7年間も使用した商品とは比べ物にならない高性能機であることを理解しています。そして1年前の商品といま発売されたばかりの新製品とが根本的な違いはないことに承知しています。
だから顧客は大混雑するほどの盛況ぶりなのです。
商品に醒めている顧客に売り込んでも、お客が買うように店内装飾を仕向けても、顧客は商品に醒めていますから、手の内をみな分かってしまって反応を示さなくなっています。
いまの経済低迷は成熟社会にあっても高度経済成長時代と同じ販売方法をとっているところに要因があります。
さあ、このような時代を生き抜くには企業もまた共生社会に向かって社会全体を誘導しなければならないのです。一方的に売り込むのではなく、一方的に買い易い環境を作って売り込むのではなく、顧客と関係性を通じて顧客と一緒に顧客が求め探している価値を発見し、それを確認し、顧客価値を実現することができる企業になること。これが共生社会におけるビジネスの姿です。
カスタマープリンシプル協議会の常務理事石橋さんはこう話をしています。
「オリンパスの内視鏡部門の売上が、一時的に伸び悩んだ時代があった。
メーカーは納品をし、検収をいただいたあとはメンテナンス体制をしっかりすることで良いと思っていたが、顧客は所有するために購入するのではなく、使用するために購入していることに気付いた。この気付きこそがオリンパスの戦略転換を生んだ。使用者としての顧客に調査をしたところ、メーカーとして行うべきだが実際にはやっていないたくさんの不備が見つかった。オリンパスはそこを徹底的に改革をした。オリンパスはこの改革をCRM改革とした。やがて、かつてない顧客との強力な信頼関係が構築できて、オリンパスは顧客が求める価値を発見することが出来た。そして求める価値に対応することで顧客の価値は実現でき、併せてオリンパスの価値も実現できるようになった。やがて内視鏡部門の売上は回復し成長を続けた」。
共生社会は厳しい社会です。共生社会というとだれもが豊かに助け合って生きられる社会を思い浮かべますが、現実は誰もが豊かに生きることができる社会ではありません。
共生社会に勝ち残れる企業と人には、二つの条件があります。
一つは顧客との信頼関係を構築できる能力があること。
二つは顧客との価値を発見し実現できる、優れた専門性を有していること。
この二つは別個に存在するのではなく、お互いが縄のように絡み合って一個のものとして存在します。信頼性を構築するうえで専門性は欠かせない存在になりますし、専門性は信頼関係があってこそ生きてきます。双方のうち一つが欠落していたら、つまり専門性がなかったら信頼関係は築けず、信頼関係が築けなかったら専門性は発揮できないということです。
いやおうなく、日本経済はデフレスパイラル社会を進み、多くの商品は成熟したままで商品そのものに新しい価値を見つけることは、はなはだ困難な時代になりました。
専門性と信頼性に裏打ちされた関係は強固で消滅することはありません。
しかし関係性は放置すれば時間と共に風化していきます。顧客ケアの意義は関係性を長期的に持続することにあります。
自律的にパラダイムをシフトしなければならない時代を迎えるにあたり、「顧客は商品を使用する存在であると定義し直すと、いまの営業体制がいかに前時代的なままであることに気が付かれると思います。オリンパスの事例は、まさに時代を先読みした当を得た戦略転換であったわけですが、私が感動をするのは石橋さんをはじめとしたCRMで経営改革を行う部門が率先して実現したことです。
時代の転換期には、時代を読む冷静な専門的な目と、いち早く実行するための社内をまとめる関係深化力が必要です。ここでも専門性と信頼関係構築力の有無が勝敗を決めているといっても過言ではありません。
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