【2010.01.29配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
CRMはかなり広範囲な領域をカバーした言葉です。CRMは顧客との関係性をマネージメントするシステムと訳されていますからコールセンター系システムもCRMですし、百貨店の顧客管理もCRMです。
かつて第一次CRMブームのときには、世界からCRMパッケージが入ってきました。
時代背景としてはワン・トゥ・ワン・マーケティングが大ブームになり、IT業界はワン・トゥ・ワン・マーケティング一色になりましたが、このマーケティングを実践する理論も手法もシステムもなく、混沌としていた時期でした。CRMはシステムとして存在していましたからCRMこそがワン・トゥ・ワン・マーケティングができるシステムであるとIT企業は一斉に飛びつきました。世界中からパッケージが輸入され大ブームが起きました。
その時代のCRMを大別すると一つはSFAに分派される訪問営業の行動を登録し集計管理するものと、キャンペーン管理を中心にした店舗系と、コールセンター系に分けることができます。
私がここで旧CRMと呼ぶのはワン・トゥ・ワン・マーケティングを展開する上で、これならできると呼ばれていたパッケージに分類されるものです。したがってSFA系やコールセンター系は旧CRMに含めていません。
旧CRMという呼称を言い換えれば、データベースマーケティングであり、データマイニングマーケティングとして今日も存在しているものです。小売流通業が今でも行っているRFM分析はデータベースマーケティングの代表的なものです。
これらが訴えているものは、優良顧客の発見と顧客維持育成、LTV実現です。
ですからBREA理論と同じことを語っています。
それでは効能書きとしては同じことを語りながら、BREA理論とどのように違うのかを説明していきます。
CRMと言っているデータベースマーケティング、データマイニングマーケティングは、顧客取引情報を持っている顧客データベースから絞込条件を与えて顧客を絞り込み、抽出した顧客にDMやEメールを出すのですと言っています。
優良顧客の発見と顧客維持育成LTV実現手法を例に説明を加えますと、分析を通じて優良顧客を抽出します。どのような顧客が優良顧客なのかを見定めるのは過去の取引明細の分析です。しかし分析する上では何らかの与件が必要です。そこでたくさんの金額を買ってくださった顧客とか、購入頻度が高い顧客とか、業種に応じた特性を考慮して優良顧客像を絞り込んで行きます。そしてこの人たちが優良顧客だということになります。
優良顧客を絞り込むのに「複雑系」がデータマイニングです。データマイニングとはデータを掘り下げるという意味ですから、誰が見ても説得力がある顧客を抽出することができます。しかしデータマイニングは専門的な知識が必要です。
一方「簡単系」がデータベースマーケティングのRFM分析です。本メールマガジンの読者の方はCRM分野の専門家か関係している業務に携わっている方ばかりですから、RFM分析の説明を改めてしなくても良いと思います。
RFM分析はバカチョンカメラです。マトリックスでRF分析、あるいはFM分析で、R・F・Mを5段階に分けるとRF度の高いRF5顧客(最近購入しかつ購入頻度が高い顧客)、FM5の顧客(購入頻度が高くかつ購入金額の高い顧客)は優良顧客であると定義されているわけですから、売り場の販売員さんでも間単に抽出できます。データマイニングを操作するような専門的な知識は不要です。抽出した顧客に対してDMを発送すれば完結です。まさに誰もができてしまう優良顧客発見とDMを出すことによって維持育成ができLTVが実現するのだと言うことになるのです。
以上、説明でおお分かりのように、データベースマーケティング、データマイニングマーケティングは、分析、優良顧客の定義、優良顧客の抽出、顧客育成と称するセールやプロパーの案内など関係促進がワンストップで一括して実現できてしまうわけです。
だからこそRFM分析は浸透したのだと思います。
しかしデータベースマーケティング・データベースマーケティング手法で抽出した顧客は(1)あくまでも一定期間における絞込条件に沿って抽出された顧客であることです。
ここでは二つが問題になります。一つは顧客の取引情報は過去における一定期間内の出来事であること。言い換えれば抽出の期間設定次第で優良顧客は入れ替わると言うことです。
たしかにこの人は優良顧客だと言う理想的なマイニング手法で絞り込んだとしても過去の一定期間内における範囲指定をした中での分析です。タイムスライス分析を以って優良顧客と断定できるのでしょうか。一定の期間内では頻度が多かった顧客というべきでしょう。
二つ目は絞込予件次第で抽出される優良顧客は入れ替わることです。
現状は過去の取引明細を分析したなかでの優良顧客像を決めていることです。ここは非常に問題なことです。優良顧客像とは過去の取引明細にしか情報はないのでしょうか。売り場の責任者に聞けば必ず反論があります。
私は優良顧客とはどのような顧客かをクライアント企業の各層にアンケートをとるようにして聴くことがあります。最近は聞きません。答えが分かっているからです。経営層の考える優良顧客像、販売一線の考える優良顧客像、データベースを一日中分析している顧客データ担当者が考える優良顧客像は異なります。一番外れているのが実は顧客データ担当者なのです。彼らは私がこの会社で顧客のことなら一番分かっている人間ですと言いますが、彼らが分かっているのはデータベースの世界であって、実は本当のことが良く分かっていない人が多いです。
(2)次に顧客維持育成プロセスとはセールやプロパーのDMを出すことなのでしょうか。DMを送りEメールを送れば顧客育成になるのでしょうか。
顧客育成とは、顧客の心を動かさなければ実現しません。ある大手百貨店で調査をしたらある優良顧客に年間380通のDMを送っていたことがわかったそうです。「これはすべて商品を買ってくださいというDMですから、ストーカーのようなものだ」と担当者の方は言っておりました。
これらをまとめますと、分析と顧客育成とは別個のプロセスなのにマーケティングと言う用語を後ろにつけて一つのプロセスとしてしまっているとこが問題なのです。
問題意識のある人はデータベースマーケティングでは顧客育成は実現できないからやめたと言い切っております。問題意識のない人はいまだにデータベースマーケティングを科学的で勘や経験を除外したすばらしいマーケティング手法だといいます。
本来は分析と顧客育成は別個のプロセスです。私は分析を否定してはいません。データマイニングも顧客を抽出するのに大変役立っています。問題はそこからなのです。顧客を維持育成するためのプロセスが欠落しているのです。ましてやLTV実現は特定した顧客に対して長期的な関係促進を具体的に持続していかなければ実現できません。抽出のたびに入れ替わる顧客に対して毎回抽出を行って、その顧客にDMを送ったところで顧客育成もLTVも実現はしません。
こうしたCRMを私は旧CRMと名付けています。なぜ旧なのでしょうか。それは新CRMが存在しているからです。
旧CRMには、優良顧客の確たる定義はありません。育成すべき優良顧客モデルを決定するプロセスがありません。顧客を育成プロセスもありません。関係を深めるプロセスもありません。顧客との対話もありません。一番大事な顧客接点をいかに設計するかもありません。シナリオもありません。関係促進のツールもありません。
もっとも重要な顧客理論がありません。
あるのは分析して、絞り込んで、抽出をして、DM(Eメール、電話、訪問)を行うと言う簡単な仕組みだけです。簡単なるゆえに浸透し、簡単なるゆえに成果が出ないのです。
それはプロセスを省きすぎているからです。
以上が、旧CRMです。旧CRMとは既存CRMの大部分に当てはまるのではないでしょうか。
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