【2010.10.15配信】
今の時代を分析して定義を加えることが目的ではないので、今の時代を商品の成熟かつコモディテイ化した時代と簡略な表現で統一いたします。
にもかかわらず企業は高度経済成長時代の営業手法を捨てようとはしていません。
先日、ある企業の営業担当取締役から「これからの営業は売上ではなく利益を追求する時代だから営業活動方針を変える」と、聴いた時は唖然と致しました。手法として売上ノルマだけではなく利益ノルマを課すと言ったからです。
日本はいまだに営業に対する考え方が高度経済成長時代の思考を右往左往しているからです。
この取締役の話は間違っているとは思っておりません。原理原則的な話の内容でいつの時代でも通用する話です。私の驚きはいまごろになって利益を重視するために利益ノルマを課すとした点です。
営業員に売上ノルマと利益ノルマを課せば売上と利益目標が達成すると思っているのでしょうか。
先駆的な企業はすでに目標売上も利益目標も外しています。例えば資生堂では人事評価基準は顧客の評価です。顧客にアンケートはがきを渡してどうぞ私を評価してくださいとお願いをするのです。このハガキが集計されて人事評価原紙になるのです。
もっと先駆的な企業はステークホルダーとの共生関係ネットワークを組み立てて、顧客を心底から納得に至らしめるプロセスを構築しようとしています。発展するネットワークに企業も、顧客も、関係者もすべて巻き込んだ価値実現を目指そうとしているのです。
この中には企業の売上ノルマも利益ノルマも存在しません。あるのはステークホルダーの価値実現です。ステークホルダーの価値実現だけを考えていれば自社の価値も一緒に実現して行きます。
一人の消費者の、消費活動の姿を紹介しましょう。
彼女は34歳。子供は二人。小学校2年生と幼稚園児。大学を卒業して大手流通業に勤務。
学友と恋愛結婚。退職。マンションを取得し専業主婦。夫の年俸950万円。
薄型テレビを購入する時に彼女は次のように動きました。
1.ネットで42インチ液晶テレビの全商品を把握しました。
2.次に性能一覧表を制作しました。
3.次に使用者による製品評価をいろいろなサイトで調査しました。
4.自分の好みを加えて、購入するべきメーカーと機種を選定しました。
5.価格ドットコムで、最安値を調べました。
6.家電量販店に足を運び、実機を見て販売員の説明を受け、さらに他機も見て自分が購入する製品を確定しました。
7.42インチで12万円台に値段が下がったら購入すると決めました。
8.価格ドットコムで129800円、テレビ台付き、ブルーレイ録画付き情報を見てその店舗に訪問し、ポイント15%をつけるという提案を受けました。
9.彼女は自宅から一番近い家電量販店に行って125000円、テレビ台付き、ブルーレイ、納入据付付き、ポイント25%をつけるのなら今ここで買うと値引き折衝をしました。
店側は折れ価格交渉は成功しました。
消費者はこんな風に意識を変え行動を変えています。
こんな消費者をつくり上げてしまったのはメーカー、販売店が顧客に対する根本的な方針を持たず、「どこよりも安い」を繰り返した結果なのですが、ネットの普及も大きな影響を与えたわけです。企業がこうした消費者の動きを見ても意識や行動を変えられないでいるのは、「今までのやり方で今までの売上ができている」という事実を握り締めて離さないからなのです。
企業は利益がなければやっていけないのは事実ですが、利益を求める手法が劇的に変わっていることを気付かなければいけません。
営業部門に、売上目標と利益目標を与えたから、これで利益が確保できるとする考え方が通用するはずはなく、したがって値引き要求を防御しろと営業に言うしか方法はないはずです。
けれど成熟化モコモディテイ化した現状では「決めるのは顧客」という原則を忘れてはいけません。
既存の手法で今の売上を確保できていることを既得権益のように保護しているから、国内経済が発展しないのです。このことが「茹でガエル現象」に通じることを薄々理解しても、変えることができない理由はここにあります。
多くの経営者はビルドアンドスクラップを望みます。新しいものを組み入れて両立させてから利のないものを削除するというビルドアンドスクラップです。
困難な時代とはまさにこういう背景があるからだと思います。
コメント