【2009.010.02配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
テレビコメンテーターとして出席していたワタミグループの渡邉美樹氏は、百貨店が衣料の低価格政策を打ち出していることを批判し、次のように断言しておりました。
「百貨店は店舗内装、設備、サービスなどが高コストで構成されているので、安い商品を販売する企業体質ではない。この低価格政策は絶対に失敗する」。
私は渡邉氏の意見に異論がありますので、それを下記に申し述べたいと思います。
結論を先に言いましょう。
「高品質を維持したまま、企業努力で価格を安くしましたと広告宣伝をすれば、百貨店の低価格政策は成功する」。
その根拠は次の通りです。
売上=顧客数×購入頻度×購入点数×商品単価
上記の公式は、私がコンサルティングの現場で、どうしても売上を増やさなければならないところから発見した公式で、売上要因分析と名付けています。
売上は上記4つの素数項目を乗じた結果で算出されます。
渡邉氏が「この低価格政策は絶対に失敗する」という失敗とは何かが明らかではありませんが、経営上の失敗とは、売上と利益が減少すると解釈することが妥当と思います。
居酒屋チェーンは、ローコスト・ロープライスで成り立つビジネスですから、百貨店のようにハイコスト・ロープライス政策では経営が成り立たないと居酒屋経営と百貨店経営を同一俎上に置いて比較をしたのだと思います。
話を公式に戻します。
前述した売上要因分析に記載した4素数項目のうち百貨店が低価格政策をとって下がると予測されるのは、商品単価だけです。商品単価が低価格政策で、仮に20%下がってしまったとします。しかし、高品質のまま価格を下げましたという広告宣伝をして、購入顧客数が以前より20%増えれば、売上は下がりません。公式を読めば一目瞭然です。
さらに安いと言うことで購入頻度が増えれば、公式の「頻度」がアップし、売上アップに直接寄与します。また安いという理由で顧客の「購入点数」が増えれば、売上アップに直接寄与します。私のコンサルティング経験上では、価格を下げると顧客層の裾野が広がり、利用層が増えます。特にローコスト・ロープライス政策をとっているアパレル企業の製品は、百貨店が販売する商品で着慣れた顧客には不満が多いと思います。百貨店ほどのブランドを有する流通業が一定の品質を維持して価格をさげれば、ロープライス・ロークオリティ製品に不満を持つ顧客層に支持されて顧客層は、したがって売上は拡大していきます。
ですから、告知をすれば売上も利益も減ることはありません。私は広告宣伝の告知方法を誤らずに行えば、百貨店が行うアパレル衣料の低価格政策は絶対に成功すると断言します。
告知をしなければ失敗します。顧客に一切を知らさず、購入目的で来店した顧客が、売り場で値札を見てはじめて知ったと言うことになれば、来店顧客数、したがって購入顧客数は増えませんから、先の公式に照らし合わせれば、これも一目瞭然で答えが分かります。
飲食業は席数×稼働率×客単価で売上を試算します。席数の大小で売上の上限が決まってしまうビジネスです。また、飲食業は顧客一人ひとりの飲食量には限界があります。もちろん、年齢や体力で個人差はありますが、平均値としての客単価は固定化してしまうビジネスです。
つまりは飲食業が売上要因分析の4項目を可変する要素は、立地と、ブランドと、店舗内装と、メニュー(品目と価格)と、店頭POPポスターと、味と、人的サービスであり、利益を構成するものは、売上予測に基づいたコスト管理なのです。
ですから大きな売上をつくるには、学生やサラリーマンの乗降客が多い駅に限りなく近く、人通りの多い立地で、広い面積を有し、席数も多く、できる限りローコストで店内装飾をして、売れ筋商品を揃え、メニューは厳選し(数多くつくらないで)、調理工程を効率化して、質の良いアルバイト学生を頼みにして、店舗運営を行う。店外には入店を誘うPOP看板を配置する。
そして客単価を上げるためにはあと一品を勧めるメニューと接客技術を整えるということになります。
私がよく知っている某有名飲食チェーン店では、社長が店内装飾をデザインし、自分で材料を調達して自分で工事を行って内装代を節約していますし、餃子で有名な某チェーン店は舞台装飾会社が経営していますから、従業員が自分たちで内装をしてしまいます。
一時、クリック&モルタルなる言葉がアメリカから輸入されました。リアル店舗とインターネットとを両方やるのだと言う意味です。ここで言うモルタルとは店舗のことですがロードサイドビジネスの店舗はモルタルで安く作っていることを表現しています。
それに比べて百貨店は,豪華な内装費用に大金を投じますから、ワタミグループの渡邉美樹氏は、飲食業経営者の発想で百貨店経営を論じ、百貨店のアパレル低価格政策を絶対失敗と断言しているのです。
一方、私はマーケティング発想で語っています。マーケティング観点からは百貨店が発表しているアパレル衣料の低価格政策は絶対成功すると考えます。百貨店でも面積で集客力と売上の上限が決まります。飲食業でテーブル数、席数に当たるものが百貨店では売り場数ですから、百貨店も面積で坪売上を算出していますが、飲食業のように席が一杯なので満員入店断りと言うことはありません。つまり購入顧客数は席数以上には増やすことができない業態と比べると、極端に言えばいくらでも増やせる(増やさなければいけない)業態なのです。
いまの時代はリーマンショック以降、世界同時不況の影響で「低価格」にスポットが当たっています。あと2~3年は低価格ブームが続くでしょう。しかし日本経済の底流に怒涛のように流れているのは、成熟社会と少子超高齢社会によるデフレスパイラル社会の到来です。日本人のもつ美意識は成熟社会にこそ発揮されますから、品質の伴わない低価格時代は終焉を遂げます。そこを考えると「価値に見合った価格の商品」を創造することは、百貨店にとっては重要な経営課題です。だから商品品質と価格の関係性を顧客層ごとに仮説を立てて創造することは重要なことなのです。
百貨店は金に糸目を付けない富裕層を取り込むだけでなく、高品質を求める顧客に対して積極的に需要を開発することが必要となりました。
成熟社会における百貨店の役割とは一体何か、つまりは百貨店の自分探しを再確認しなければならないのです。
私は百貨店が追い求めるものは、つまり絶対に失ってはならないものは「美意識」であると思います。美意識とは、衣料であれば、試着した顧客が歓声を上げるほどの着心地の良さであり、食品であれば思わずほっぺたを押さえてしまうほどの美味さであると思います。
美意識を品質と言葉を変えてよいと思いますが、品質の良い商品を水平軸として垂直軸には価格を置いて、価格と品質のバランスを顧客にしっかりと説明ができれば、百貨店は再び活況を呈すると思います。そんなわけで私は百貨店が「リーズナブル」を追いかけることは大賛成で、経営的に失敗をすることは絶対にないと確信しています。