GWが終わった週末を利用して知人と二人で奄美大島を訪ねた。
奄美に行くたびに訪問を願う笠利町宇宿小学校のシンボルツリーには、アカショウビンが巣を作っていた。
ピリョリョーと鳴き声が聞こえる。宇宿小学校のこどもたちは小鳥の鳴き声で鳥の名前を当てることができる。学校が教えているからだ。
宇宿小学校は複式授業をやっている。複式とは一つの教室に二つの以上の学年が同居することである。教室は1・2年クラス、3・4年クラス、5・6年クラスと3室しかない。
写真は1・2年生の教室である。
先生は掛け持ちで教室を回る。3・4年、5・6年の教室は通路と仕切る壁も入り口もなく完全オープンになっている。
徳裕子校長は、「オープン教室のためクラスごとのセクショナリズムが生まれません。休み時間にはこども達は教室を行き来しています。全校みな仲良し。職員室でも会話が弾んでいます。ちょっと元気がないこどもがいると、担当教員はそのことをほかの教員に話します。すると教員達はそのこどもに出会うと必ず声掛けをします。こどもは自分のことを、気配りをしてくれるのだなと感じるのでしょう。だからこどもはすぐ元気になります。この小学校はみなが一人に気配りをします。島のよき習慣です」と笑顔で語った。
奄美の人たちのだれもが心やさしいのは、豊かな自然と一緒に暮らしているからだと思う。
徳校長は4月に赴任してきた新しい校長である。初めてお目にかかったのだが、真の教育者とはこのような人であろうと感じた。
謙虚で、折り目正しく、凛として背筋を伸ばし、是は是、非は非と善悪に厳しく、しかも包容力に満ちていて、自然を敬い、子ども達が正しく伸びることを願い、つつましい方であった。発するオーラに圧倒された。
都会のこども達は、このような学校に留学するべきだと思った。こどものうちに自然を敬い、自然の美しさと自然の脅威を教えてあげる。
奄美の人たちはどこまでも透明な海と、どこまでも深い森を持ち、世界中で奄美しかいない生き物と暮らし、強い台風におののき、今は少なくなったがそれでも、ねずみを追って住いの近くやさとうきび畑に出没する毒蛇ハブに気をつけながら自然と共生をしている。
それをこどものうちに教えることは極めて大切なことだ。
この絵は世界で奄美大島にしか棲まない原始のウサギといわれる黒ウサギである。子育て用の穴を掘って子供を育てる。20分もかけて穴をしっかりと固めるのは子ウサギをハブから守るための知恵と言われている。黒ウサギやアカショウビンが棲む森にごみを捨てるのは止めようとする絵である。なぜ森にごみを捨ててはいけないか対象となる生き物が具体的なため、教育指導は具体的な効果が出る。
この絵はハブ。ハブはねずみなどの獲物を絞めることができない代わりに強力な消化液を獲物の体内に送り込む。奄美の人はハブを恐れるけれど片方ではハブに神性を見出し、大島紬の文様に取り入れるほか、ハブの死がいがあれば西に頭を向けて埋葬する文化もあわせ持っている。こどもたちにこういう絵を描かせてハブを教えている。
緑豊かな山を禿山にしてしまおうと考えるのも、結局はヒト個人が決めること。
人間は自然を敬い、共生しなければならないことを教えれば、美しい海を汚し、禿山にしてしまおうとは決して考えない人間を作る。結局は教育に行き着く。
私が奄美に訪れるたびに宇宿小学校へ立ち寄りたいと願うのは、これから人類が目指さなければいけない教育の基本とそれを実現する豊かな自然がこの現場にあるからである。
奄美の人たちは、だれでも人との出会いを喜び、別れを大事にする。奄美大島にはさようならという言葉がない。
徳校長は、校庭に立っていつまでも見送ってくれた。 (画像クリック)