六義園が12月13日までライトアップをしていることを知ったのは、11日のことであった。六義園は徳川五代将軍綱吉の側用人として権勢を誇った柳沢吉保が作らせた庭園である。しかも駒込駅からすぐ近くにある普段は閉門している染井門が開いていることを知って、私は何十年振りかで六義園を訪れたのである。最寄り駅の南北線駒込駅は通勤に使う線で、自宅の最寄り駅から4分、事務所の最寄り駅からも7分の距離にある。
私にとって六義園は青春の思い出が詰まった場所である。私は十代のころ大きな出逢いがあり二十代になってその出逢いは別れを迎えた。その別れは、その後の私の人生は大きく変えた。私はもともとから前に向かって進むタイプであったがために、過去を振り返ることがなかった。しかしこの出逢いと別れだけはいつも心の片隅に残っていて、変化の大きかった人生の中で路地に咲く小さな花のように私の道を燈していたのである。それでも自らの意思で決して本心ではない別れを作ったことはいつも慙愧の念が残り、それはいまでも残り火のようになって消えないでいる。だからこうして六義園を訪ねればそのころの思い出がふつふつと湧いて慙愧の残り火がまた新しい薪を放り込んだストーブのようにめらめらと燃え出すのである。
私はたった一人の人をいま心に留めている。その人は三叉路に立って思い悩んでいる。豊かな才能があるのだが新しい道に進めないでいる。進みなさい。新しい道に進みなさいと私はその人に告げた。しかしその人は臆病である。
なんともったいない。あなたの人生が進んで、ふと振り向いたときに、やらなかったことだけが後悔として残りますよ。
私は美しい公園の入場料が半額であった。65歳以上は150円であったのだ。気持ちは40歳と思っていても肉体は生きた時間にふさわしい形を見せている。私はみずから65歳とは言わなかった。券を売る人はだまって150円ですと言った。
私もこれからの人生はやりたいことを実行する。私を求めている人たちのために、私を必要としている人たちのために生きていこうと決意をしている。やろうと思ったことはやることに決めている。私は振りかえってやっておけばよかったという後悔は二度と繰り返さないのだ。
三叉路に立って思い悩む人たちよ。やらなかったことによる後悔の念に立つ選択は選んではいけない。阿波踊りは短い言葉に人生の妙を言いあてているではないか。
「踊る阿呆に見る阿呆。どうせ阿呆なら踊らにゃ損そん」と。