奄美の泰さんから、奄美にいらっしゃいと手紙が届いた。奄美メディアステーションホールディングスの清水部長が来社して奄美が疲弊しているので手助けして欲しいと頼まれたばかりであった。
JALのマイレージは10万ポイント近くも貯まったままになっている。早めに飛行機を押さえれば航空機代は無料だ。だから行く気さえすればいつでも行けるのだが、奄美がその名のようにひっそりと美しくしているだけで、活力が萎えていることも事実でたしかに疲弊しているでしょうと清水さんに答えを返すのやっとであった。
奄美を訪問して島人と触れれば、もう訪問者は奄美の虜になる。けれども小さな車に乗ってあれがアヤマル岬です。あれが田中一村記念館です。ハブを見ましょう。ホテルは名瀬のビジネスホテルで泊まり、意味も分からず鶏飯を食べて、民謡酒場で観光客を相手にした島唄を聞いて黒糖焼酎を飲んで、また次の日も、目では何も見えない島を車で走って、また黒糖焼酎を飲んで鶏飯を食べて帰るだけではリピート客が訪ねることはないでしょうと私は清水部長に告げた。
とても冷たい物言いであったが、私一人の力を貸すだけでは何も出来ないじれったさを清水部長にぶつけただけであった。だから私が出来ることといえば奄美の知り合いと心を通わせるだけですと清水さんに言ったのである。
二週間以内にまた連絡をしますといって清水部長は帰ったがそんな矢先に、泰さんから奄美にいらっしゃいと手紙が来たのである。
私は今、とてつもなく大きな仕事の責任者をおおせつかっているので、1月一杯は身動きも出来ないから土日を使って1泊2日で奄美に行こうとスケジュールを見つめている。奄美は亜熱帯の島だから冬でも15℃以下に気温が下がることはない。冬は強い北風が吹いて黒雲が島を覆い包む。けれども気温は東京のように寒いことはない。
東京から奄美大島へはJALが日に一便だけ直行便を飛ばしている。この便は東京の人には便利に出来ていて、朝早く羽田を発って帰りは奄美大島発が夜の7時なのである。だから1泊2日を極めて有効的に使える。しかし島人は1泊2日はまず出来ない。夜の7時に発って9時に羽田に着く。翌朝8時台に帰郷するとなれば夜中に用事を済ませなければならない。一泊で帰島するとなれば鹿児島経由で帰るか、大阪経由で帰るかどちらかだ。
奄美に行けば会いたい人はたくさんいる。約束をそのままにしている人もいる。見舞う人もいる。相談を受けている人もいる。
泰さんは奄美にいらっしゃいという。まるで禅問答のようだ。服部さん。誰と約束があるか分かりませんが、どんな仕事をしているか分かりませんが、奄美にいらっしゃいと言っている。柳緑花紅と私には聞こえる。そうだ。奄美に行こう。私はそう思った。