早朝に目覚めて部屋のカーテンを開けた。やけうち湾の海は湖のように穏やかだ。
ここはマングローブの海。マングローブは群生するときは、みなが背の高さをそろえるという。この小さな蕾のようなマングローブが森になっていく。
アダンの根は砂浜をしっかりくわえ込んで砂浜を固定させる役割を持っている。アダンなど砂浜に生える植物は砂浜を守る役割を果たしている。自然は海底から山頂まで微妙なバランスを持って一体化している。自然界ではすべてのものが役割を持って存在している。
砂浜は珊瑚でできている。南の島では海が砂浜を作っている。砂浜は海の一部であり、同時に陸の一部である。海と陸の交わるところが砂浜である。砂浜は陸の汚れをろ過する役割を持ち、砂浜は海のエネルギーを緩衝し、陸地の侵食を守る役割をする。その砂浜を守るのがアダンである。
昔の奄美はどこもこのような砂浜をしていたと泰さんは語った。この砂浜をコンクリートで固めたことによって海底から山頂まで一体としてつながる自然の連鎖が壊れた。奄美だけではない。本州も九州も四国も、昔はこのような砂浜であった。奄美でもわずかしか残っていない。沖縄でも奄美でも多くの海岸はコンクリートで固められ、結果として砂浜がなくなり、ろ過機能を通過しない汚れた水が海の汚染を助長している。
わずかに日が射した。海は表情を変えた。太陽がさんさんと降り注げば、海は息を呑む青さに変化する。この海は昔大きな隕石が落ちてできた湾である。
夢紅をでると、夕暮れて残光が海を照らしオレンジ色に光っていた。この海に見送られて空港に向かった。1泊2日の小さな旅はこれで終わった。私は上昇する機上から空港近くにある泰さんの家を眺めた。家や外灯の照明を煌々とつけて泰さんは東京へ戻る私を見送ってくれていた。