雪が降る夜はしんしんとしていて大好きだ。雪が降る夜の中に朝日が射すまで立っていたい。雪の夜に私はいつもそんな幻想に襲われる。それほど雪が降る夜が大好きだ。そして雪の夜に、私は必ず三好達治の二行詩「雪」を思い浮かべる。
日本人はモノの豊かさを得た代償として心の豊かさを手渡してしまった。昨夜の報道は敵である大雪が日本に襲ってくるかのような勢いであった。私は編集デスクが雪で転んで負傷したニュースを拾えと記者に指令を出しているだろうなと思っていた。案の定、今朝の朝刊も、そしてテレビニュースも転倒して骨折した老人のニュースを知らせていた。負傷者を集計して118人も怪我をしたと消防庁の発表を知らせる情報もあった。
都会では雪は人もクルマも転倒する事故の要因であるかのように敵対視して報道される。家内は娘たちの家に、子供たちが転ばないように注意をしなさいと電話を掛けている。
私は違う。「雪の夜って静かだろう。光の見え方もいつもと違うだろう。雪の夜って幻想的で美しいだろう。だから日本では雪の夜にたくさんの民話が生まれたんだよ。雪の歩き方はコツがいるんだ。こうやって歩けば転ばないんだよ」とこどもたちには自然と同化できる日本人らしい考え方を教えたい。自然を敵視する見方を教える必要はないのである。
軽井沢に住む知友は、一年中で冬が一番好きだと言う。雪が降ると窓際に椅子を持っていって、一日中雪が降るのを眺めていると言う。夜には木々を照らす照明を付けてずーと雪を眺めているのだと言う。雪にぴったりなバロック音楽を流してスコッチを天然氷のロックにして雪を眺めているのだと言う。
我が家のローズマリーにも雪は降っている。ローズマリーは雪の帽子をかぶったようにしてひっそりとしている。
雪
三好 達治
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。