大紅葉を移植した翌週、私は気がかりで軽井沢に訪問した。大紅葉はしっかり根付いていた。移植時に枝が折れたところが枯れているだけで、光を燦燦と浴びて居心地がよさそうにしていた。
隣り合わせに立っている山桜と被ってはいない。大紅葉がつくる日陰に座るとそよ風が吹いてきた。気持ちの良い自然の風に吹かれるなんて久しぶりのことだ。
足元にはうすばしろ蝶が翅を休めていた。のどかな昼下がりであった。私も知友と、浅間石の上に腰を下ろしてこの緩やかな時間に、私の翅を休めた。
この森は6月というのに鶯が大きな声で求愛をしている。遠くではカッコウが鳴いている。冬と様子を変えてしまった森の中にいつまでもいたいと思った。
南が丘は啄木鳥(きつつき)が多く、たくさんの家が被害を受けることで有名だ。工務店は知恵を絞っているけれど有効な手立てはないらしい。
良く考えてみると人間から見れば被害だろうが、啄木鳥は加害者ではない。自分達の森に人間が入り込んで木の家を建てただけのことだ。啄木鳥は木を突付くのが仕事なのである。
ちょうどゴルフボールがすっぽり入るくらいの穴を開ける。ここで巣をつくり卵を孵し雛を育てる。大紅葉の隣地にある某高名政治家の別荘では3列に20個くらいの穴が、きれいに整列して開いている。とうとう管理している工務店ではトタン板を壁に貼りつけた。
木を縦に張ると被害率が高いとか風潮はあるが真実は人間には分からない。すべては啄木鳥の気分が決めること。そこで下地にトタン板を貼り付けると、被害はトタン板で止まり貫通しない。吉村順三が軽井沢の別荘本に書き表してから模倣する建築家は多い。この写真を見ても確かにそうなっている。
湿度も低く心地がよい軽井沢はまもなく梅雨の時期を迎える。ここで草木は緑を増し成長を迎えるという次第だ。年輪を重ねるとはこうした日常を平凡に積み重ねることである。マジカルウエポン制作所はニュースリリースが終わったところ。朝日新聞やYAHOOニュースなどが取り上げてくれた。BtoBビジネスでこれほどまで多くのメディアが取り上げるのはめずらしいと大手企業の広報部は驚いている。
根付いた大紅葉を見て大きな元気と安らぎをもらったと語ったのは軽井沢の知友であった。