万平ホテルでランチを食べることが目的ではない。クルマの試乗記を書くことが目的で万平ホテルを目的地として選んだのだ。途中のプロセスが大事だ。今年初めての軽井沢は抜けるような青空であった。
万平ホテルの中庭が5月になると花を咲かせる。つつじの満開となる時期はほぼ終わりであったが、残影はあった。その代わり木々の若葉が本当に美しかった。庭を見ながらランチを食べ、ランチを食べながら庭を見ていた。
このような時間に紐づいた経験が心を豊かにしてくれる。瞬間に生きるとは経験に生きることである。生きていること自体が経験をしていることだから、経験したことに感動を忘れたら、瞬間に生きることはできなくなる。その時から人間の生命はカウントダウンを開始する。
このクルマはいつでも進化し、人に運転する歓びとは何かを教え続けてくれる。私はいつもこのクルマから元気を貰っている。いつまでもこのクルマと向き合っていたい。そう思うのは欲望に過ぎないか。それとも愛着か。突き放して愛を感じ続けることはできないか。それは自分の生命力と相談することだ。生命力は悟りでも何でもない。前に進んでいく力だ。
万平ホテルのあと、小諸に出て高峰高原へ上る入り口にある山間の温泉で、タオル込み600円の熱めの温泉を愉しみ、小諸から高速道路に乗ってまっすぐ帰京した。熱い湯度が幸いして茹ることがなかった。
うたたかの夢。一瞬を生きる人生。どう考えようと勝手だが、考え方によって生き方が変わってくることは確かだ。
些細なことからでも、生きている歓びを感じとれることができたら素敵なことだ。
ターシャ・チューダーは、今日はとてもよい日ね。雨が降ってくれて木々が喜ぶわといい、今日はとてもよい日ね。雪が降ってくれて本当に美しいわと言った。
私もターシャに習うなら、今日はとてもよい日だ。こんなに美しい花と出会えたからと、感謝をしなければいけない。そんなことを考えながら若紫に咲く五弁の花びらに、手持ちのアイフォンを向けたのであった。花の名を調べたが分からなかった。つつじの一種だと思うけれど・・・。