藤村俊二さんの訃報を聞いた。この日長くオヒョイズでソムリエをやっていた加治さんが経営する恵比寿ガーデンプレイス近くにある「麦と葡萄」に行った。麦とはウイスキーの麦。葡萄とは言うまでもなくワインのことである。加治さんの専門領域だ。当然のことながら、藤村さんを偲ぶ話になった。
私は、写真のカードをいまだに持っている。アポなしでオヒョイズを訪問し、満席で帰るお客さまに藤村さんはこのカードを一枚手渡し、次回来店時にワインを一杯サービスする仕組みになっていた。
藤村さんのポーズは、いやあ、満席ですいませんと言っているようだ。
こちらも次回にこのカードを使ってワイン一杯分を余分に飲もうなんて無粋なことはしないから、このカードは何枚か、貯まっていた。それでもこうして持っているのは、生きているカードで使わないカードを貯めておくケースの中に紛れていたからである。
閉店する時にこのカードを思い出として何枚か持って帰る社員の方はいても、顧客でいまだに持っている人は少ないのだろうなと思いながら故人を偲んだ。
死んだ人は思い出してくれた人の心の中で生き続けることができるから。でも思い出すにはモノが必要だよね。モノが記憶を呼び起こすからね。私はこんな話を加治さんとしたような気がする。加治さんの手料理は本当に美味くなった。この夜は加治さんと二人で赤を一本と泡を一本空けた。私が70%くらいの割合であったから一本以上飲んだことになる。
藤村さんは人生にこだわり続けて生きてきたが、加治さんも同じようにその精神を伝承している。それが何よりもうれしい。
このカードを持っていれば、見るたびに加治さんに会いたくなるだろうなと思いながらデスクの上にカードを置いてスマフォで撮影するのであった。