眼が回復したころ、友がブーケを手に持ってオフィスに訪ねてくれた。昨晩のことであった。彼は私より身長が8cmほど高く、痩身で、脚は長く、ブーケをもって玄関に入ってくる姿が、そのまま女性雑誌の表紙のようで、まばゆいほど輝いて見えた。ブーケがこれほど似合う男性はめったにいない。
こちらと言えば、眼の手術の前に水晶体をレーザーで粉砕し、代わりに人工レンズを入れているから見えるものがすべて蛍光色の光を浴びている。そんな青白いレンズを通して友人を見るから、なおさらまばゆく見えるのかもしれない。
手持ちのオピストサヴィニレボーヌ2012を開けて飲んで空けた。このワインはキイチゴの亜味が強くやや軽めであった。それからサントネヴィエーユヴィーニユ2009を開けた。こちらはミネラルが豊富で色々な味愛が次々と出てきておいしいワインであった。これも空けた。ワインを飲むときにチーズやバタールと、バターがあれば何もいらない。花束と人間と絵画があればもう完璧である。
芸術談義があれば理想郷である。ちょうどヘンリーミラーが彼と共通の話題になっている。
理想郷でのワイン飲み会であった翌日、病院の帰りに出社してカメラに収めた。それが上の写真である。
眼の回復は順調で、2週間前に視力0.05くらいだったものが0.4に回復していた。ただゆがんで見える症状は消えていないので勘と経験と度胸でつかみ取った0.4である。実力から言えば0.1くらいのものであろう。
後ろを振り向くとこの部屋にある絵画はすべて永田力画伯の作品であった。
今日は私ひとりであったので音楽を流した。最近は深町純のピアノで弾く中島みゆきの作品と、リムスキーコルサコフの交響組曲シェーラザードからThe Young Prince and The Young Princessに凝っている。音楽を聴いて記憶のひだから何を思い出そうとしているのだろうか。それはわからない。