友と久しぶりい再会して、一時を楽しんだ。ここは横浜、ホテルニューグランドの本館イタリアン料理店である。
テーブルからパティオを眺めると大勢の観光客が散策している。外は汗ばむほどに暑くテラス席に顧客はいない。
「窓を開ければ港が見える メリケン波止場の灯が見える。・・・」
マドロスと酒場の女との淡い恋を歌った別れのブルースは、藤浦滉が詩を書き服部良一が曲をつくり、淡谷のり子が昭和12年に歌って大ヒットした。歌の舞台はホテルニューグランドである。
今日も横浜の大桟橋(メリケン波止場)には、豪華クルーザが停泊していた。
振り向くと本館の横に新しく建てた新館が並んでいる。観光ブームで山下公園を歩く観光客の多いことよ。
友とは、レストランで待ち合わせをして、食事をし、山下公園を5分ほど歩いて、そこで別れた。
友は、GWの途中に、北上へ戻る。有名私大を出て、外国の大学でMBAを取得し、グローバル企業に勤めた。そこで私と知り合った。ここでの仕事が終わっても個人的な付き合いは続いた。
今回の出会いも、他愛のない話に終始した。しかし、友との20年間に亘る年月には、共有する記憶が刻まれている。二人で沖縄に行き、私の沖縄人脈に触れて、友が、服部さんはディープですねと驚いたことや、友のお嬢さんが誕生した時に、こんな名前を付けましたと電話があったことや、数えだせば20年間の記憶は重い。だから他愛のない話で十分なのである。あとは想像力を働かせて感じ取るだけでよいのだ。
友は、高村光太郎の小屋を見てきましたよと教えてくれた。
この前会った折にこの話をしたのである。
私は50余年前に智恵子抄を読んでことがあって、いまだにいくつかの詩を暗記している。
智恵子抄の中に残る 「案内」を友に送るとしよう。
案内
高村光太郎
三畳あれば寝られますね
これが水屋
これが井戸
山の水は山の空気のやうに美味
あの畑が三畝
今はキャベツの全盛です
ここの疎林がヤツカの並木で
小屋のまはりは栗と松
坂を登るとここが見晴らし
展望二十里南にひらけて
左が北上山系
右が奥羽国境山脈
まん中の平野を北上川が縦に流れて
あの霞んでゐる突きあたりの辺が
金華山沖といふことでせう
智恵さん気に入りましたか、好きですか
うしろの山つづきが毒が森
そこにはカモシカも来るし熊も出ます
智恵さん斯ういふところ好きでせう。