毎朝、都電に乗って大塚駅まで通う。そこから都バスに乗って伝通院前で降りる。3分ほど歩けば閑静な住宅街にある我が庵にたどり着く。
話は都電のことである。
正式な名称は東京さくらトラム。しかし、東京さくらトラムと呼ぶ人は少ない。みんな都電という。
都電なら3文字だ。言いやすい。 東京さくらトラムを発音すると10文字。言いづらい。
そんなことを考えて名前をつけろよと言いたくなるが、お役人の仕事はそんなことだろう。
昔、車掌が乗っていて発車する時はちんちんと鐘を鳴らしていた。だからチンチン電車とも言う。
私は毎日、チンチン電車に乗っている。毎月4日、14日、24日は朝から夕方までチンチン電車は満員だ。
毎月4の日は巣鴨のお地蔵様の縁日なのだ。
チンチン電車は、巣鴨の地蔵通りのど真ん中に停留所がある。だからチンチン電車を目がけて、孫可愛さに、巣鴨のお地蔵様へお参りするために来るのである。
僕なんか、どこまでたどり着けば気が済むんだろう。家で手を合わせたって同じことではないかと考えるが、それでは気が済まない人たちがお賽銭を上げるためにやってくる。
巣鴨地蔵通りは、旧中山道である。今の中山道は国道17号線で、都内に入ると白山通りという。
その道に並行して、国道254号の川越街道がある。
巣鴨地蔵通りの入り口は巣鴨駅だが、チンチン電車の停留所名になっている庚申塚があるあたりまで行くと大塚駅に近い。
したがって、大塚駅周辺は川越街道と中山道の間に挟まる地域で、昔は池袋よりはるかに栄えている地域であった。いまでも大塚駅前は、駅から放射状にあるどの道を入っても繁華街にたどり着く。昔は大きな三業地でもあったようだ。
今は、ちょっとやそっとではお目に掛れない昭和初期風情の飲食店が並んでいる。むろんコロナで歯抜けになっている。
そんなことを知ってか知らぬか、チンチン電車は毎日走っている。どこかのおじいちゃんが席に座れず、倒れたら大変だと、明らかにわかる表情でポールに掴まっている。僕もそ知らぬ顔をして、混雑した車内でつま先立ちをして筋トレのマネごとを繰り返し、チンチン電車に揺られている。