台北にある忠烈祠は、中華民国として中国共産党や日本軍と戦って戦死した兵士を祀る、日本でいえば靖国神社のようなものであるがここは神社ではない。
日本観光客はガイドから二顧の礼を学んで、忠烈祠でお参りをする。二顧の礼とは二回拍手を打ち、二回頭を下げ、また二回拍手を打つ儀礼である。ほとんどの台北観光コースに組み込まれている。
圓山でタクシーに乗った我々が着いたところは忠烈祠。圓山大飯店からはすぐの距離にある。
ちょうど衛兵の交代が始まっていた。陸海空三軍が交代して衛兵を選び忠烈祠を守っている。軍靴を鳴らして衛兵が見事な行進をして正面の門と忠烈祠正面で衛兵が一時間おきに交替をする。交替すると衛兵は微動さえしない。
多くの日本観光客は、この姿に感動をして日本もこうやらなければダメだよなと精神を高揚している。
友人もその一人であった。「靖国神社には国のために命を失った兵隊が祭られている。それを日本の首相はお参りしないなんてとんでもないことだ.その点小泉首相は偉かった」と、日本にいては思いもしないことを口走っている。
「衛兵に選ばれることは兵士にとって光栄なのだそうですよ。身長や体つきに基準があって、それにここにくれば家族に会えるので、家族は忠烈祠の衛兵に選ばれた喜びと、息子や兄弟に会える二つの喜びがあるそうです」
私は昔、誰かに聞いた話を思い出して友人に話した。
「そうですか。確かに格好いいですよね」
人間を洗脳することは簡単である。友人はすでにかなり洗脳されている。友人が行う二顧の礼の真面目なこと。それは見ていておかしいくらいであった。
軍靴の響きも精神の高揚に役立っている。ガチャ、ガチャと歩く衛兵の靴音で観光客は酔いしれてしまうと思った。
初めて台湾を訪問した34年前は、街中が悲壮感にあふれていた。
最近では国民党から総統がでて、中国本土との関係が改善されて、アジアの優等生と言われるほど経済が発展している台湾は、国民の選択で戦争の危機は遠のいている。
知人は、「日本人はこのような場を経験しないといけない」といった。私も「そうですね」と答えを返した。それから私達は待たせてあるタクシーに乗り込んで次の観光地へクルマを向けた。