知人と京都へ日帰りで美味いもの食べに行こうと話が決まった。日帰りで食べるとなれば昼食か早めの夕食である。一回の食事にわざわざ京まで行くことはないのだが、人生に対して「絶対的積極」で対峙している知人には、わざわざ行く必要はないとか、無駄なことなどという否定語は存在しない。今この一瞬に生きることを地で行っている。死ぬまで積極的に生きようとする哲学で満ち溢れている。こういう人と話をすると、こちらも一緒にテンションが高くなる。知人とは午年と 猿年の相性なのだが、私(午)の上に猿(知人)が乗って手綱を緩める相性だそうで、この二人の組み合わせではどこでも飛ぶように走っていくらしい。
私も絶対的積極の知人からテンション高く京都へ美味いものを食べに行きましょうと誘われると、絶対にいやとはいわない。それどころかいつの間にか私が誘ったがごとく話を膨らませてそれなら「W」が良いのではと言ったのは私のほうであった。
これから並ぶ料理は昼食の(実は一番安価な)コースである。田舎に行くと料金が高くなるほどに品数が増える最悪なコースメニューがあるが、まさか「W」ほどになればそんなことはあるまいと思う。しかし若い人ほどボリュームはいらない。だから私はいつも安価なコースを頼む。(写真はクリックしてご覧ください)
初めに季節のお茶が出る。磨かれたお盆にお茶とお絞り。レイアウトもしっかり考えてある。ここで顧客と勝負をするわけだ。このレイアウトを決めるのは女将の仕事。
いきなりアマダイの刺身としっかりとしたうに。醤油と味噌の二味で食べる設定である。ビールはまだ配膳されない。
えびのしんじょうである。名品の陶器は実に大胆なつくりをするが、このしんじょうは実に大胆であった。
見せますね。大胆にごまをかけて。皿は唐津ですね。
これは餅(もち)を焼いたものだが、中にうにが詰まっている。意外性で大受けであろう。この赤絵の皿は使い古したもので色が落ちている。
近江牛の霜降り肉を野菜と絡めたもの。皿は絵唐津。
これで次は白魚が入ったご飯と味噌汁。この後にフルーツが出たが撮影を忘れた。
知人とは22歳に出会ってからもう43年の付き合いである。相性が良い性かいろいろなところで食べ歩いた。お互いに性格のすべてを知り尽くしている。だから関係はすこぶるよい。
年に数回はこの知人からお誘いがあって私はこういう旅をする。一流のものに触れ合うことを続けることで人間は磨かれる。私はこの店の料理長や女将によって磨かれている。彼等は命を削って料理を作る。人は人でしか磨かれない存在である。私はこうした旅を贅沢とは思わない。いつでも自分を育てることができる。私は知人を磨き、知人は私を磨いている。だから声が掛かれば喜んで参加する。美味いもの紀行は自分を研磨する旅なのである。