自動車メーカーがスポーツカーやカブリオレに力を入れ始めているのは、エモーションを重視した戦略転換をしているからだ。理屈で買うのではなく感情で買ってもらう。理屈を並べれば、まだ5万キロしか走っていない。今のクルマで十分に乗れる。・・・・・といくらでも買う必要がない理屈を並べることができる。ところがこれ欲しい!何が何でも欲しい!となればこれは理屈ではなくエモーションなのだ。だから各社は理屈なしに欲しい商品を用意してくる。
BMWニューZ4はエモーションをくすぐる最大級のオープンカーだ。これまでのZ4はハードトップ型クーペか、オープンカーの2種類があって、どちらかを選ぶのであるが、顧客は両方が一台で賄えるリトラクタブル・ハードトップを切望していた。それがものすごく美しいボディと、ダブルクラッチと、そしてリトラクタブル・ハードトップを乗せて登場してきたのである。
ネットでの評判はほとんどクレージーで誰もが常軌を逸したエモーションで打ち震えている。例えば★★★★★ーいい。(欲しいという意味か)
私はBMW東京と懇意にしているせいもあって、Z4-35のエンジンを良く知っている。このエンジンは直6ツインターボなのだが、ターボラグが極めて少ない優れもの。なんと0~100kmを5.1秒で駆けぬける。ダブルクラッチとはクラッチが二つあって1速が入ると2速が接続して待ち構えている。2速に入ると3速目が待ち構えている。このようにして7速までシームレスにクラッチがつながっていく。前のZ4Mは5.0秒であったからMに匹敵する速さなのだ。
かくいう私もエモーションに震えている一人でBMW東京の高輪支店へ駆けつけたのである。BMWの知友から試乗しませんかと誘われれば、断わる理由はどこにもなく、ニヤニヤしてしまいそうなのをグット我慢して平常心のようなそぶりで深いシートに座り込む。
聞こえてくるマフラーからの音がセダンとはまるで違う。ニューZ4は、国道1号線を一気に吹き上がったのである。ダブルクラッチの効果は身体でわかる。シームレスに一気に加速し、弾丸のような直進性は見事だ。ハンドルの敏速性は911と変わらず、車線変更なども後ろを気に掛けてなど必要ない。きゅっとハンドルを切ったとたんに車線変更は終わっている。
★★★★★★-いい。試乗から戻ってクルマを降りたら思わず叫びそうになった。
優先順位は低い。しかし欲しい優先順位では一番だ。いまはこのような気持ちにさせる理屈に合わない商品が売れるのである。人間は理屈では動かない。人間は感情で動く。ニューZ4の登場でポルシェもベンツも強敵が現われたということだ。誰が顧客のエモーションをくすぐるのか。深化しているのはクルマだけではない。マーケティングもじわりと顧客に寄り出してきたのである。