英国に渡ってウイスキーの醸造所を歩き、地酒を探検している加治隊長から第一報が入った。
スコットランドの西海がアイリッシュ海である。ここにヘブリデース諸島があるがその一つがアイラ島である。我々は、独特の燻香がするここのウイスキーをアイリッシュウイスキーとか、アイラウイスキーなどと呼ぶが、正確にはアイリッシュ全体とその一部分であるアイラとは異なる。アイラ島にあるウイスキーがアイラウイスキーでその主人公がBOWMORE(ボウモア)である。
今から30年前、西麻布にBOWMOREの直営店ができて、私などは上司と、地階にある徳山で、まだ若かった野崎洋光氏の造る和食を食べてから、その足で2階にあったBOWMOREへ行って独特の香りがするアイラウイスキーを学んだものだが、BOWMOREの島、アイラ島から加治隊長の第一報が入った。
おはようございます。お久しぶりです。
服部さんお元気ですか?
こちらでも「旅の寄り道」拝見しています。絶対料理感、気になります。帰国後の楽しみにしたいと思います。
これがビート〈泥炭)。枯れ草が堆積し数千年の時間を経て圧力が掛かり炭に変わる。その名の通り泥状なので天日乾燥をして固める。
アイラウイスキーは大麦を材料にウイスキーを造る。この島では何千年も前から堆積したビートを掘り出し、乾燥させて大麦の乾燥に使う。このときビートの燻香が麦に移り独特の香りを持ったウイスキーになる。大麦はやがて発芽するが、麦芽を粉砕し発酵させて、蒸留しウイスキーを造る。このときのウイスキーは無色透明だ。この透明な蒸留したてのウイスキーを樫樽に詰める。この樫樽はシェリーというスペインの一部で造っているシェリーワイン樽を使う。この樽から染み出た色で透明だった酒があめ色に変わる。とまあ、30年前にBOWMORE直営店で学習をしたうろ覚えの知識を振りかざすとこうなる。遠い記憶なので間違っていたらごめん!
加治隊長は、これからも醸造所を訪ねてウイスキーを探検する。探検とは探して検証するということだ。加治隊長はソムリエの資格も持ったワインのプロだ。
おひょいずから加治さんがいなくなって私は不自由をしている。「加治さん!いつものワインある?」で済んでいたのが、今は自分でわけの分からないワインリストからどんな味かどうかが分からないワインを選ばなければならない。これほど始末の悪い選択方法はない。
加治さんなら「いつものテイストですがもう少し熟成しているワインが入りましたのでそれをお持ちします」といってくれるが、私の好みを分からない人と、そのような会話が生まれるはずがない。
私は、これからはプロでなければ生きていけない時代が来ると思っている。加治さんは自分の足を使って実際に現場を歩いて自分の五感で経験をする。私は加治さんの生き方に心からの敬意を払う。私は本当によい友を持っている。週報くらいのリズムで写真と一緒にレポートを送ってくださいと私はメールを返した。
加治隊長へ
隊長は工藤さんの料理を帰国後の楽しみにしているということでしたので絶対料理感について話をしましょう。実は絶対料理感という表現が、絶対料理感ではなく絶対味覚ではないかと数人の友人から、指摘を受けました。絶対味覚とは口にしている味を分解し、ききわける能力だと思いますが、工藤さんに確認したら私は絶対味覚はありませんという回答でした。私は一度食べた料理はどんどんイメージが膨らんできて創れてしまうのですと言うことです。絶対音感保持者であっても一度聴いた曲を演奏してしまうことはできません。楽器を弾きこなすことができない人だっています。
工藤さんは一度食べた料理をそれ以上に磨き上げて創ることができるのです。それもサラダからデザートまでです。だから絶対料理感で正しいのだと思います。
私は工藤さんの料理ファンである黒木さんと会って工藤ファン倶楽部を作ろうと発案し快諾を受けました。黒木さんが世話人、2ヶ月に一度、工藤さんの店を貸切にして新作料理を食べる会です。定員は25名くらいですね。会の名前は「愛藤会:あいとうかい」と、いまどき珍しい古風な名称を提案しようと思います。加治隊長の名前も会員登録しておきますので、心の片隅に暖めてスコットランドの探検を楽しんでください。第二報を待っています。