日曜日、夕方の6時に執筆を終えて事務所を出た。西空は、夕焼けでもう夜の帳が下りてくるようであった。昼の熱気は夕方まで伝わっているけれど、季節は秋になっている。夏至を境に日没時間は早くなる。真夏の間、夕方の6時は明るかったけれど、8月末ともなれば午後6時は明るくない。
つるべ落としといっても若い人には分からない。井戸水を汲みあげる桶のことを釣瓶(つるべ)という。水をくみ上げるためにつるべを井戸に落とすことをつるべ落としという。転じて太陽が見る見るうちに地平線のかなたに落ちていく様子をつるべ落としという。
サン・テグジュペリの「星の王子様」には、一日何回も夕日を迎える話がある。自転を繰り返しているので小惑星はすぐに朝を迎え夕方を迎えるという話だ。夕方になれば街灯に火を入れ、すぐに朝を迎えて火を消すと、またすぐに夕方になり火を入れる・・・。こんなことを寝る時間も捨てて繰り返している。
人間もそうだ。つるべ落としの夕焼けを見て人生のはかなさを感じ、また朝になれば昇る太陽を見て今日も一日がんばろうと思う。しかし事実は、地球は24時間で一自転し、365日で太陽の周りを一公転しているだけである。人間はどこの地点に立って何を思うかで人生観を変えられる。すべてを歓びと受け止めることができる心を養うかどうかに掛かっている。