夏休み返上で出版に向けて執筆をしていたが、執筆の先はまだ長い。時折気分転換をしないといけない。忙しさにかまけて放置状態であった軽井沢での打ち合わせを果たそうと突如に思い立った。用件は二つあった。軽井沢に電話をかけると、ひとりは3時半からなら会えるといい、もうひとりは6時からなら会えるといった。3時半からの知友は軽井沢町は観光客のクルマでメイン道路が混んでいるから佐久平駅まで来て欲しいという返事であった。軽井沢駅から佐久平駅までは新幹線ではたったの9分で到着する。
原稿の切りが良い処を見つけて、読みかけの単行本、湊かなえ著「告白」と、カメラと財布とハンカチをポシェットに突っ込んで午後の新幹線に飛び乗った。
軽井沢はもはや夏から秋に様子を変えようとしている。町の郊外ではサンフラワーと、まだ初々しいサルビアが花畑を覆っていた。
晩夏のサルビアは緋色の衣を身につけて咲く。和名を緋衣草(ヒゴロモソウ)というのは、なんともふさわしい。
隣の畑に咲いているサンフラワーは、和名では向日葵と書く。この日は曇天でひまわりが向かうべき太陽は出ていない。若き頃に観た、ソフィアローレン、マルチェロマストヤンニの「サンフラワー」がいまも強烈な印象があって、私はそのころからひまわりと呼ばずにサンフラワーと呼んでいる。
立秋も過ぎ自然界は晩夏に、そして初秋に向けて形を変えてきている。都会に暮らしていると自然の営みが忘れ去られ人間だけが主人公であると錯覚をする。たまには列車で旅するのも良いものだ。
軽井沢で打ち合わせをし、それから佐久まで送ってもらってもうひとりの人と会った。途中にあったこの駅、岩村田駅は小淵沢駅へ向けて小諸駅から出る小海線、佐久平駅の次駅である。
佐久まで来ると眼前に八ヶ岳連峰が迫っている。執筆が終わったら小海線2時間20分、日帰りの旅をしてみようと思う。