切り株はすぐに苔が生す。それだけ軽井沢の森は湿度が高い。いつでもミストが掛かっている。ミスト(mist)は、もやより濃いが霧(fog)よりも薄いものだ。湿度があるから森の生き物が育むともいえる。この日私は、午後の新幹線に飛び乗って軽井沢駅前でレンタルサイクルを借りた。
ふと万平ホテルで珈琲を飲もうと思い立った。私は南が丘通りを北上し、離山通りを渡り、泉が里の別荘地を抜けてから雲場池経由で離山通りに戻り旧軽井沢へ入った。
万平ホテルはいまは森ビルの管理下にあるが、それは経営の問題であって、佇まいは昔と変わらない。ジョンレノンは、老後は軽井沢で暮らそうとしていたらしい。万平ホテルの前社長は、避暑に来た別荘族が別荘を離れる時に飼っていた犬がたくさん捨てられていることを悲しみ、北軽井沢でたくさんの捨て犬の面倒を見ているそうだ。その前社長が対談でジョンレノンは将来は軽井沢で暮らしたいと言っていたと発言している。ジョンレノンは万平ホテルを軽井沢の定宿にしていた。
レンタルサイクルの返却時間は18時が締め切りだ。新幹線の乗車時間にはまだ時間の余裕がある。自転車で20キロ近く走っただろうか。自転車を返してから町内の知った道を一時間ほど散策をした。あたりは薄暗くなっていたが、咲く花を撮影するには困らなかった。
季節は秋花の盛りである。
最近は仕事に偏っていた時間が長かった。けれども意思さえ働けば午後から家を出てたった半日でこれだけ楽しめ、心を癒すことができる。久しぶりの自転車で、クルマでは絶対に分からない道路の起伏も身体に感じることができた。さわやかな風を、からだ一杯に感じることもできた。午睡をしてしまえばそれで終わってしまうわずかな時間であった。