奄美大島の泰さんから、「住用がひどくてね」と電話が入った。「この前服部さんと立ち寄った店覚えていますか。奄美アイランド!壊滅です。住用の道の駅もあったでしょう。おばちゃんが農産物を販売していた店です。あそこも壊滅です」。
「え?あそこは静かな入り江に面していて急な山ではないはずですが・・?」
「土砂崩れではないです。水害です」。
平らで静かな入り江にマンゴロープ林があって美しい風景。近くにはタンカンの畑がたくさんあってとにかく美しい町。このイメージが住用の印象である。何度この入江でカヌーに乗って遊んだであろうか。
奄美アイランドはフィリピンの小さな島で織られる布地を販売していた不思議な店であった。この中のいくつかは龍郷の紬柄がハブの文様であることと似ていて、どう見ても蛇の文様を織物にしているとしか思えなかった。
奄美アイランドはひっそりと隠れているようにしてある本当に不思議な店である。
「そうですか。壊滅ですか。マングロープもですか」?
引き潮でマングロープの海底が現れると、海底に川が流れている。ゴミ一つないこの美しい森と海がぼろぼろになってしまったという。
「人間の仕業ではなく、自然現象ですから、また時間を掛けて元に戻るでしょう」。そんな雑談をして泰さんの電話は切れた。
家に奄美アイランドで購入した布地が手付かずでしまってあることを思い出して取り出した。草木染でいい色に染めてある。手織りであることはすぐに分かる。この夜は布地の感触を手で味わいながら、住用を思い出していたのであった。