事務所のある小石川に、自転車さえ通れない細い路地があって、その細道には一本の沈丁花が植えてある。
毎年3月に入るとその細道を歩くのが楽しみで、今年はいつあの香りがするのだろうかと、来ない人を待つかのような思いを持って歩いている。
今日、沈丁花がその芳香を放ち始めた。
北風は相変わらず吹き付けている。それでも日差しは3月にふさわしく力強さを増してきた。
私は沈丁花の香りを楽しんでから思い切り深呼吸をした。
今朝は自宅の梅に二羽のメジロが飛んできて、しきりに花実を啄ばんでいたが、こうして慌しく暮らしている人間にも春は訪ねてくる。
鳥は明日を思い悩んで生きてはいない。二羽のメジロにねぐらはあるのかと思うことがあるが、大都会のこんな小さな梅の木を探し当てる強い生命力に驚かされて、ねぐらの心配はどこかへ消えてしまう。
週末、朝から仕事をしている。午前中は積み残しの仕事を終えて3人の人にメールを返信して15日に提案する仕事の資料を眺めて考え、午後2時過ぎから稲嶺うらら本を書いている。
沈丁花の咲く頃に私は春の訪れを五感で味あう。