何のことはない。海岸線に3メートルのコンクリート壁を立てて、津波の防御をしようという構想らしい。
1954年の洞爺丸事件を契機に青函トンネルが掘られ、1955年宇高連絡船紫雲丸沈没を契機として架橋論議が巻き上がり3本の本州、四国架橋が実現した。そして311の津波で強固な日本を造ろうとする構想が政治家から出ている。
彼らは311から何を学んだのか。私は「人間は自然には絶対に勝てない」ことをあらためて学んだ。絶対的な価値は自然にだけ存在し、人間は自然には太刀打ちできるはずがないことを学んだ。
古人が伝えたように、「ここから下に家を建ててはいけない」ことが次の大津波から人命や資産を守るために正しい。自然の脅威に打ち勝つため強固な要塞列島を造るなど、311から何も学んでいない人間の、傲慢でしかない。
日本は海岸線にテトラポットを埋め尽くして、美しい海岸線を壊した。今度は3メートルのコンクリ壁を立てて海岸線と陸地を遮断しようとしている。
私は奄美大島で防潮堤の被害をよく知っている。塩害はとんでもないところで起こり、植物を枯らしていく。降った雨のはけ口は絞られ、そこに集中するために砂浜は壊されていく。美観は失われる。
きっとこんな巨大な壁を作ったら、大雨が降ればこの壁の周辺には生活ごみが集まり、汚水がたまり、とんでもないことになるだろうな。
地球は、海底から山頂まで、エリアも動植物の配置もすべて連鎖している。そしてそれぞれに役割を持ってつながっている。
例えば砂浜は、陸の一部であり、海の一部である。砂浜は陸からの雨水を海に流す前のフイルターの役割を持ちながら同時に、寄せる波のエネルギーを緩衝させる役割を担っている。ショックアブソーバーの役割だ。だから砂浜があれが陸は削り落とされないし、海も陸の汚れを持ち込まない
砂浜には、アダンのように根っこが砂に食い込み、まるで砂を掴んで離さない植物が砂浜を守っている。アダンは砂浜の守り主というわけだ。やがて高度が上がるたびに植生は変わり、そこの自然を守り、生き物を守っている。こうして土砂が下流に流れ海を汚さないように、自然は配慮をしている。こうして森は山に恵みを与え生き物を生かしている。
そのうえ、緑の森が、美しい栄養たっぷりな海を作り、海の生き物は森に守られて生きている。
水の星、地球はこうした循環のバランスを持って出来上がっている。この視点で身の回りを見渡せば、コンクリ壁で海岸線を要塞のようにして強固な日本を作る話など出てこないはずだ。
地元に利益を誘導し、次の選挙も勝利したい議員と、そうすることにより、公共工事を受注できる人たちの思惑が見え見えである。
日本は世界一美しい国だ。北には流氷の海を持ち、南には亜熱帯さんご礁の海を持つ。この国には美しい四季があって、風景を一年に大きく4回変えていく。グラデーションの数を加えれば365日、風景を変えるといっても過言ではない。日本の広葉樹森は世界一美しいとは黒姫山に住むニコル氏の言葉だ。これほど奥行きの深い美しい自然をもった国は、・・・ないと私も思う。
この美しい国を3メートルのコンクリ壁で防潮堤を造ろうとする議論がまことしやかに進んでいる。
この国はどこへ目指すかわからないが、国民がもっとまともになって、まともな政治家を選べるようになるには、あと100年の年月を待つしかないと思う今日この頃である。