イモトは太い眉毛を描いた芸人である。体の張り方がただものではないと前から思っていた。マッターホルンに登頂した番組を見て確実にそう思った。来年の夏にヒマラヤ・エベレスト登山に挑戦するという。
イモトは、回転がよく反射神経も鋭い。そして何より冷静な頭脳と言葉を持っている。自分を別な自分が覚めてみていて、その冷たさと静けさが伝わってくる。それでいて演技をしているときは、なりきる。
なりきらなければならないのは、仕事のどこかで失敗したら命を落とす可能性を秘めているからである。
イモトは自らを傷めながら、誰かを励ましている。人はイモトから元気をもらう。番組もそうつくっている。
マッターホルンを登る番組では、山の師匠の言葉や、ナレーションが出てくる。以下は私が聴いて言葉やナレーションをiPadに書き留めたものの一部である。
歩けば着く。
ペースは落とすな、目の前に集中せよ。
歩け。前に進め。
本人が前に進めないと言ったらそれが終わりの時。
斜面は垂直。どうした。がんばれ。
絶対登る。
険しいほど得るものは多い。
山を制するのは折れない心。
気を抜くな。まだ終わっていない。
永遠に続くのではないかと思った苦難の道
努力の一つひとつがつながり、道を創った。
人生の応援歌を演じるにふさわしい体の張り方を井本絢子はしている。
あの冷ややかな静かさは、番組プロデューサーの過酷なアイディアを、自らが笑いにすることで生まれたのだと思う。演じる自分とそれを見つめる氷のような冷たさと静けさ。しかし命がけで番組を収録しなければならない自分。それをまた冷静に見つめている自分。
26歳のイモトを突き動かしているものは何か。彼女は只者ではない。