10月8日、3連休の最後の日であった。高速渋滞状況をネットで調べるといまは渋滞がなかった。私はクルマに飛び乗るようにして環七から関越に向かった。
軽井沢はとても紅葉の時期とは思えなかった。南ヶ丘の森は、穏やかな日差しを浴びて、木々は若葉のように輝いていた。
森の住人、両川さんに電話をすると、「これからまき割りをしようと、チェンソーにガソリンを入れたところですが、お会いしたいので行きましょう」となった。
森のなかで折り畳み式の椅子を広げて座って待っていた。
北村さんにも電話をしたが不在のようだった。森が持つ特有な静けさの中で、私は何一つ考えずにじっとして待っていた。やがて軽トラに乗った両川さんが駆けつけてくれた。
「いい森ですね。キノコがたくさんありますね」。
両川さんはたくさんのキノコをすべて言い当てた。
「これは美味しいです。和でも洋でもおいしいです。あそこにあるキノコは希少きのこでマツタケよりおいしいです」。
二人で歩いていると「山かがし」の逃げる姿が目に入った。
「山かがしは奥歯から消化液をだしますね。それに皮膚からも毒液を出しますね」。私がいうと、森の住人は返事が違う。
「おとなしい蛇ですから、人間の足音で必死に逃げます。それに蛇がいるということは、ここが豊かな森だという証明です。生態系の頂点にいる蛇がいる森は、下位に生態系の途切れない循環があるのです」。
この森には小さなカエルが棲みついていることを森の住人に話した。
「ここには数ミリの小さなカエルがたくさんいますよ。草の膝の高さあたりにたくさんの泡状の卵を産んでいます。それが目当てなんでしょうね」。
その言葉を無視して森の住人は「山野草もたくさんありますね」と一つひとつ駆け寄って話をしてくれた。次々と花の名前を言ったが私にはわからない世界であった。
「軽井沢には絶滅危惧種の植物がたくさんあります。湿地帯でしか見ることができないよそでは絶滅した植物が、軽井沢には残っているのです」。
森の住人とは、3時間以上も語り合った。
北村さんはゴルフ場にいた。「何で早くいってくれなかったんですか」。「いや、私はいつもいま思い立つといま実行する性質(たち)で、いつもこうなんですよ」。私は弁解をした。
「事前にお伝えくださればお持ちしております」。この人はいつでも心を揺さぶるような温かい言葉を発する。
「紅葉の時期にまた来ますから事前にお知らせいたします」。私は北村さんともゆっくり話をしたいと思った。
「今日は三連休の最終日ですから道路は混むでしょう。早く帰ります。私は森の住人に別れを告げて軽井沢を後にした。関越で交通事故が3か所もあって、帰路はとてつもない事故渋滞であった。
こうして一日が終わった。