永田力画伯コレクションの一点、タイトルは「よっぱらった二人」である。1970年作であるから画伯が47歳の作品である。
絵のわからない人にとっては理解不能であろうと思う。絵とは風景画や静物画であると思っている人も同様だろう。壁を飾るものと思っている人も理解不能な絵であろう。けれども永田力ファンにとっては、たまらない作品である。
この絵は南天子画廊で発表したものである。当時画伯は洋画家の鶴岡政男さんとよく飲んでいた。この絵の左は画家の自画像、そして右は鶴岡政男さんである。
飲んだくれてよっぱらった二人と、二人を冷静に見つめる芸術家の目がある。
私は、永田画伯の絵を、一遍の小説を読むように読み解く。まるでサマーセット・モームのような短編小説で書くことを永田力画伯は、一枚の絵にしてしまう。
人間は夢なくして生きては行けず、夢だけでは生きてはいけない。よっぱらった二人の画家は酔いしれてカウンターに並び、酒を傾け、ボンゴをたたき、マラカスを振っているけれど、我に返ればむなしい朝を迎えるだけである。
画伯が描こうとしていたのは人間の心に内在する夢と現についてである。
思い返せば「永田画伯は色彩の魔術師とも言われているんですよ」と、私に教えてくれたのは水上勉夫人であった。当時は深い意味も分からずに彼女の話を聴いていたが、今はその意味が分かる。
左の紫から緑に変わり、やがて赤色に変化するグラデーションを見て、うまいなあと思う。
「よっぱらった二人」は、実は後ろに「我に返った二人」を描いている。絵を眺めていればそのことに気づく。どちらが現か、夢かは定かではない。
人間を描く画家としてこれだけの才を持った画家をほかに私は知らない。私はこの絵を見てよっぱらっているだけの自分を戒め、我の返った自分を戒める。今年もこうして年が暮れる。