服部隆幸 旅の寄り道

死を考えた結果

親しい、友人たちが次々と死んでいった。人生の一ページを共有した人たちであった。私は、死を考えたがすぐに思いとどまった。死は考えるべきものではない。他人の死を体験するものだと。他人の死を感じるものだと。最後は自分の死を体験しておしまいだと。

私はリフォームした寝室に掛けているクリムトの素描絵に、弔意を示すガレ風のランプを当てて光の色を変えた。

部屋は、たちまち茶褐色に染まった。クリムトが描くべートーベン・フリーズに登場し、九番、歓喜を謳う美女の肌色も茶褐色に変わった。

緊急事態法発令

緊急事態法発令中ではあるが、コロナ感染の迷いはないのか。この混雑は、なんともどうだ。
５月５日午前１１時４０分の、東京さくらトラム（都電の別名）車内だ。
押し付けられて写真を撮るスペースはなかった。乗客が降りて車内に空きが出てきたので、スマホをカバンから出してパチリとなった次第である。

しかし、他人を指さすことはできない。自分も乗客の一人だ。私は午後からミーティングがあり、出社の途中。皆もそれぞれに用事があるから乗車している。

車内のどこかにコロナウイルスがあるかもしれない。危惧していながら用事を済まそうと行動している人間たちを乗せて、東京で最後に残ったチンチン電車は、路面を走り抜けるのであった。