十年来の付き合いをしている知友に電話を掛けた。コロナが空気感染で、伝播していることが判明してから、人との接触を避けていたので、気心が知れた友との会話がうれしく、90分を超える長い対話になった。
話は途中で絵の話題になった。知友は絵に対する眼力があり、その力は霊感によるものではなかろうかと思ったことがある。良い絵とそうではない絵が一目で判別する。
その友が、思い出したように、この絵の話をした。「服部さんがお持ちの絵で画面の中央で女の子が耳をふさいでいる絵がありましたね。あの絵が好きです。あれはいい絵です」。
その絵が、上の絵である。
画家は安徳 瑛(あんとくあきら)さん。画家は芸大で海老原画伯を師匠として油彩画を学び、首席で卒業した優等生である。
画家は、夭折した。がんに侵された晩年は、と言っても50代の若さであったが、残る時間を「空間と時間と、時間の一瞬」をテーマにしてキャンバスに描いた。
絵のタイトルは「風が止まった一瞬」である。人間にとって大切なものは時間の一瞬である。画家は、死を間近にして、生きることとは何かを哲学したのであろう。この絵は、今は私の寝室にあって寝起きを共にしている。
一枚の絵を巡って理解を共有できる人と話ができることは何よりもうれしい。
そこで、しばらく絵の話に没頭した。
オフィスにある10数枚の絵が重たいので、明るくかつ良い絵を4~5点新たに収集し、重たい絵は外して室内のイメージを一新したいと考えていることを友に話した。
私は奄美大島の学校に油彩画を送るボランティアを個人的に行っているので、学校に寄贈できれば、画家にとっても一番良い選択なのである。
この絵は25号だったかな?南天子画廊が扱った大きなサイズである。タイトルは「仮面の二人」社会を、人間を風刺した内容であるが、高等学校に寄贈したいのだが左側の下半身が気になって寄贈できないでいる。
この絵は、女の顔とタイトルがある。だがよく見ると隠し絵が女性の左側にあって、右手は女性の胸に伸びている。この絵も高等学校では、ちょっと困りますと言われそうだ。
この絵は画家の自画像。画家について手元の資料を追いかけてみるとこの絵を描いた時期は画家もまた、長いひげを蓄えていた。プロ好みのうまいタッチで描いたものだが高校生に分かるかなと、手を引いてしまう。この絵も南天子画廊で扱ったものだ。
このような話を友人と交わした。まさに風が止まった一瞬の出来事であった。
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