【2009.03.06配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
今回の大不況によって世界中がアメリカをあてにしての経済であったことが良く分かりました。
直接には関係がないような業界までもが回りまわって日本中が何らかの影響を受けているようです。その上、新たな政治不安が重なって日本の行方が混沌としてきています。
日本企業は新たなパラダイムを求めています。企業経営に必要なものは人と、物(商品)と資金とそして何よりも必要なものは顧客です。人と物と金が揃っても顧客がいなければ経営は成り立っていきません。顧客さへいれば他が不揃いでも経営は成長していきます。
日本は戦後60余年、アメリカから指導を受け、アジア人でありながらアジアを見ずに欧米に目を向けて、欧米からものの考え方や経済合理性を学び、咀嚼して自分の血肉にして経済を発展させてきましたが、その結果として得たものが、なんと貧困率がアメリカに次いで世界第二位、自殺率が欧米近代国家比率で世界第1位、世界では第9位の悪しき勲章でした。
むかし、SI企業の社員と話しをした時に、彼らは口を揃えて、ITは人を幸せにしないと言っていた事を思い出します。彼らは毎晩徹夜に近い仕事をしてシステムを納品していた人たちでした。
利益至上主義、経済合理性を追求してたどり着いた結果は疲弊した格差社会であり、人の絆が壊れた殺伐たる社会であったわけです。戦後から続いた経済活動の行き着いた先がこうした結果であることは日本人なら誰もが気づいていて、その反省から日本的なものの考え方や行動の仕方に注目が集まっています。
新しい経営パラダイムは顧客を中心軸に据えたパラダイムであることは誰もが一致した意見ですが、顧客に対する考え方を私はこれまで「顧客戦略」と、名付けていました。
経営戦略とは誰もが分かる言葉ですし、日本語としても、とてもわかりやすい言葉と思っていました。アメリカでは戦争理論を経営理論に置き換えています。古くはランチェスター戦略なども戦争統計学を応用したものです。PERTチャートなども海軍の戦略を経営に応用したものです。私はアメリカの経営理論に戦争理論がどう関わってきたかを研究する立場にないのでこの話しを深掘りすることはできませんが、攻撃的な白人は戦略という用語は好きなことは確かで、戦略という用語もアメリカ発祥のものなのです。一方日本では石田梅岩や松下幸之助を代表とする商人哲学理論を宗教的、儒教的な見地から発展させています。そこで日本人が新しいパラダイムを考える中心軸を顧客戦略としたのではどうにも様になっていません。
何か良い言葉はないかと模索していました。
私はこういう概念は日本語にはないと考えて、英語で追いかけましたがポリシーがよいのではないかと思いつきました。顧客に対する施策と訳しました。
ところがアメリカに住む知友が一時帰国して、久しぶりに親交を暖めたのですが、この話しをしたところ、最適な用語はプリンシプル(Principle)で、この用語はポリシーよりもさらに上位にある言葉だというのです。
日本は白洲次郎の生き方を再評価する動きがあって、彼の行動の理念がプリンシプルであったことは有名な話です。これを原理原則と訳していますが、適切な日本語はないです。
もともと人の「個」を尊重してきたイギリスでは貴族階級に教えた精神はプリンシプルであり、ノブレス・オブリージュの精神でありました。
そこで私は、このメールマガジンでも、現在執筆中の単行本にも顧客戦略の言葉を排除し、カスタマープリンシプル、そしてその活動をカスタマープリンシプル活動と呼ぶことに致しました。
そしてカスタマープリンシプルの意味を「顧客に対する根本的な方針」と致しました。
そうなのです。私達日本人が求めていたものは顧客に対する戦いの攻略方法ではなく、顧客に対しての、企業としての根本的な方針であったのです。
そしてカスタマープリンシプル活動とは、「顧客と一緒に価値を実現する共生・共歓を目的としたビジネス活動」と訳しました。
これまで日本の企業は顧客に対する理念はあっても顧客に対する根本的な方針はなかったといえます。プリンシプルの持つ原理原則という訳を生かしますと、顧客に対しての原理原則に基づいた根本的な企業としての方針となります。
私はいま執筆中の本を完成させるために石田梅岩などの日本商人の書を何冊も読みましたが、どれも古臭くてとても新しいパラダイムを構築する理論としてはその意味するものを現代風にアレンジしないと使えませんでした。
企業は世界の企業と競争関係にいますから、企業が社員に石田梅岩の教え、例えば「今日人に生まれたる者は五常五倫の教へあり。君臣の義、父子の親、夫婦の別、兄弟の序、朋友の信、これよく行い、仁義禮智の性を全うし天命に至らしむ教えなり」と言ったところでとても通用しません。
私達が数十年かけてきたアメリカ的な考え方は日本人の身に染み付いてしまっていますからそういう精神構造になってしまっている人たちにも理解いただき、腑に落ちていただくには新しい言葉が必要です。
それは顧客戦略ではなく、顧客に対する根本的な方針(カスタマープリンシプル)であったわけです。
プリンシプルに適切な日本語はないのです。儒教の教科書としか見えない商人としての心構えを書いた石田梅岩の言葉を読めば、日本と欧米のビジネスにおける歴史的なバックボーンの違いに気づかれると思います。
プリンシプルやノブレス・オブリージュなど社会的高い地位にあるものが社会に果たさなければいけない方針。こう考えるとカスタマープリンシプルの深い意味が日本人の持っている血とまったく離れず、むしろ同感いただけるものと確信します。
日本はこれからカスタマープリンシプルを確立し、カスタマープリンシプル活動によって日本を変えていくことになります。