「しばらく来てないね。みな会いたがっているよ」奄美の泰さんからこんな電話が入った。「時間取れないの?少しは時間をとって奄美に来たら?」
「行くとしたら週末を使った一泊二日かな」私の答えに泰さんは「何言っているの!せめて三泊はしてゆっくりしていってよ」と応えた。
「田町さんが案内するって言っているよ」田町さんは京都出身の女性で奄美で旅行案内をしながら奄美の森や海を守ろうと運動をしている人だ。田町さんのブログ名は、かみさまの住む島 奄美!地元の人は何らかのつながりがあるのでみな口をつぐむが、京都出身の田町さんは歯切れの良い宣教師のような働きをして自分の山にある森の樹を切ってお金に替える人たちに「気がついて」と叫んでいる。
「宇検港でいかだ釣でもやりましょうかね」先回ここで魚を幾匹か釣った私に、泰さんは「それではコースを良く考えてまた連絡をするからね」と言って電話を切った。もっと良いところを案内しますよといいたげであった。奄美旅行のスタートはいつもこんな風だ。奄美は何が釣れるかわからない。鯵を釣ろうと思っても10キロ近い大物が掛かることが普通にある。魚釣りが好きな人にとってはたまらない島、それが奄美群島である。
二三日してからメールが届いた。初日は奄美空港についたらまっすぐにかけろま島へわたる。民宿に2泊して昼間はかけろま島観光、夜は魚釣り。3日目は奄美大島へ戻って昼間は宇宿小学校の校長以下全職員と児童全員とで昼食を食べる。夜は泰さんの家でバーベキューをやる。みなが集まる。最終日はゆっくりとホテルを出て原生林金作原を時間をかけて深い探索をする。そして19時発の飛行機で東京へ戻る日程である。帆船の向こうに見える島がかけろま島である。夫婦が月に5万円で楽に暮らしていけると土地の人は言うが、夫婦で5万円で暮らせる実感が湧かない。家もただのように安く借りられるよと言う。
かけろま島をあなどるなかれ。集落はこのように美しい。遠くには平家の落人から伝承されているみやびの文化と土着の文化。それに南洋文化が混在し、近くには琉球文化と薩摩文化が交じり合った独特のモザイク文化をもちながら、普段は静かでひっそりとしている。
5月になればでいご並木には真っ赤な花が咲き誇り、どこまでも透き通った海に花びらが落ちて流れる。寅さんの最後の映画に登場した並木である。寅さんはリリーとかけろま島で暮らす。
「夜釣りは怖いんじゃないの」私は昔、神津島で苦い経験をしたことを思い出した。「民宿の奥さんが犬や猫の餌をとるんで毎晩そこで釣っている民宿の前らしいよ」「泰さんは付き合えるの。仕事あるんでしょ?」「まったく心配いらないよ」