加計呂麻島の勢理に民宿ゆきむらはあった。勢理は5軒の集落である。目の前が海岸で、遠くに予路島と請島が見える。天気がよいと徳之島が見えるよと女主人の光子さんは言った。
なんとこの家はご主人が建てたそうだ。できのよさに驚いてしまった私たちは、家のなかを探検者のように探し歩いて写真に収めた。田町さんがなじみにしている民宿で、一日一組しかお客を入れないという。2食付で5000円とは東京価格と比べればとにかく安い。
なかでも浴室は感心した。脱衣所が広く、ここには洗濯機も置いてある。お客が海遊びをして直接に浴室に入れるように外部から浴室へつながるドアがある。
私たちが予路から戻ると光子さんはこんなお茶のサービスをしてくれた。夕食はこんなであった。奄美では魚は油で揚げたものを食べる。
私たちは釣りの支度をして出かけた。近くの桟橋で釣れるのかと思ったが釣れた。泰さんは釣りが趣味というだけあってとにかく上手かった。
雨が降ってきたが泰さんは微動もせずに釣りに専念した。辺りは暗くなってきた。それでも泰さんはやめなかった。
とうとうこんなに暗くなってきた。泰さんは中型の赤い魚を50匹以上も釣ってバケツに溢れるほどであった。明日はこの魚の煮つけが食べられると楽しみにしたが、光子さんは「全部猫のえさ」と言い放った。「うちの猫は釣ったばかりの生の魚しか食べないのよ」と、それが当たり前かのように力強く言い放つ説明に、我々が思い描いていた甘辛の煮付けは消えうせ、もはや黙って引き下がるしかなかった。
翌朝、早く起きてやどの前にある海岸に立った。左に請島、右に与路島が見えた。天気がよければ見えるはずの徳之島は見えなかった。