建築家と3人で真冬の軽井沢へ行った。浅間山が噴火する6日前であった。駅のデジタル温度計は+4℃であった。駅の温度は+2℃ほど高いらしいから外気温は2℃となる。真冬の軽井沢としては驚くほど高気温で道路を走る分にはスタットレスタイヤは不要のようであった。浅間山の噴煙はいつもより高く、火山性地震が増えてきているからまもなくレベル3に上がるだろうと地元の知友が何気ない話しをしていた。
太陽が当たらないところでは雪は残っているものの、なんとも暖かい冬であった。
別荘地を歩き、ふと見上げると別荘に住宅と同色の四角い板が何枚も貼ってある。これはキツツキがあけた穴ですと知友は説明をした。一番大きなガラス戸の左側上部のひさしにもポツンと白い点が見えるが、これもキツツキの被害である。内側に鉄板を入れる建築家もいるが、そんな程度ではキツツキの被害は収まらない。
軽井沢の野ねずみは小さくて可愛らしいが、野ねずみだけでなくヤマネ、時にムササビも家の中に入ります。どこから入ったのか分からないのですが入ります。押入れの中に入り込んでフトンに丸まっています。ムササビは屋根裏に入って暮らします。どの別荘も自然の中に建てているのですから、悪戦苦闘しています。知友の話は面白かった。
倒木して切られたアカシアの樹から次々と新しい若木が立ち上がっていた.よく見ると、とげがあった。自分を守るためにとげをつけて生えるアカシアの生命力に驚いた。
建築家の建てた別荘へ遊びに行くのがこの旅の目的であった。18号バイパスから18号に入り追分の手前で見る浅間山は大きかった。
浅間山のレベル3は中噴火の可能性がある状態を指している。レベル4は大噴火。そしてレベル5は超特大噴火を指している。鬼押し出しの部落を地下に埋めて、天明大飢饉の原因を作った噴火がレベル5である。
2月2日に浅間山は噴火をした。都会の新聞は大騒ぎをしているが、地元ではいたって静かである。蚊に刺されたほどのことでしかない。これも馴れという経験の成果であろう。
私は知友の別荘に着くと、山脈が一番良く見える席を陣取った。やがて暮色になり、冬の空が赤みを帯びてきた。建築家が設計した照明は実に高度な光を放ち、外の暮色と一体になった。
軽井沢が新緑に包まれるまではあと4ヶ月が必要だ。けれども決して寒くは無い真冬の太陽は天と地と人を暖めてくれる。締め切った別荘の中にも光は指している。
一週間前は-14℃ほどにも下がったのですよと別荘の知友は言った。定年になるのを待って東京の家を売って軽井沢へ定住をしている知友であった。もっと早く軽井沢へ越してくればよかったとつくづく語った。広い土地には薪置き場があった。一日に2束ほど焚きますといった。
私はストーブの火を見つめながらいつの間にか眠ってしまった。目覚めると薄暮になっていた.木星が天空に光り輝き、西の空奥深くかすかに残る太陽の光を受けてこの世のものとも思えない深い青色の空であった。