奄美に住む泰さんから「たんかん」が、どっさり届いて、写真入りの暖かな手紙が添えてあった。たんかんは亜熱帯地方に採れる柑橘で、ビタミンCが温州ミカンの2倍も含まれている。皮が身に密着しているのでスイカを切るように、包丁で八等分に切って親指と人差し指でつまんで濃密なミカン汁を吸うか、ジュースにして飲むのが琉球諸島の慣わしである。台湾でも同様に食事の後にデザートとして八等分に縦割りし振舞われるのが普通である。
今年はヒヨドリの大群が押し寄せ、農作物がヒヨドリの被害にあったらしい。泰さんは奄美空港の近くに広い広い土地を持って農業も営んでいるが、手塩にかけ育てた農作物も全滅だそうな。たんかん農家の被害も大きく、そこで早めに収穫してしまったので、時間を置いて食べてくださいと手紙には書いてある。日本中の農家が猿やいのししの被害に泣いている。奄美ではヒヨドリの被害で農作物が全滅してしまうのか。
上の写真は喜界島港から泰さんが住んでいる笠利町を写したものである。笠利は平地なので画面左側上部にかすかに写っているが、笠利からは喜界島はくっきりと大きく見える。
喜界島は島の中央に大きな台地があって、台地に上ると一面がこのような風景だ。こちらは太平洋に面した方。さんご礁の海、防潮林、島一周道路、サトウキビ畑、台地の順だ。喜界島はさんご礁島である。三年寝太蔵と名が付いた旨い黒糖焼酎がある。昔、町村合併で二つの町が一つになった。これ以上どこと合併するのかと、喜界島は町村合併を拒んだ。
私はまた新たな単行本の執筆を開始した。石垣島に生まれ育った主人公が上京して営業職について苦労をしながら成長していく青春ビジネス小説だ。週末にだけ書いて3月末日が脱稿目標日である。昨日が初日で12%ほど進んだ。週末は主人公に感情移入をして、熱い気持ちになって書き始めている。前作と二部作になる。前作は幹部社員向け、いま書いているものは若者向けである。
そんなわけで、私の心は琉球弧の島々に馳せている。 奄美は寒いと泰さんの手紙に書いてあった。南西諸島は冬には冷たい北風が強く吹いて海は荒れるのだ。雲は低く垂れ、強い風に雲行きは早い。確かに寒い。東京から行っても確かに寒いのだ。この風がある日、ぴたっと止まる。すると海はなぎて、一年中で一番穏やかな若夏を迎える。
ブーゲンビリアの花は小さな黄色の花だ。私たちが紫色の花と思っているのは花ではなく花弁である。ここに使った写真は喜界島のものだがこのように、琉球諸島はどの島も美しい。島の心を持った人たちは誰でも自然を敬い、助け合いの心を持った、都会では失ってしまった心を持っている。
娘の子ども達は見慣れないたんかんがジューシーで濃密で大好きだ。というわけで私の口に入るのはわずかだが一つひとつを味わいながら、こうして奄美の風景を思い出して頂いている。