昨年末から週末のほとんどをPCと向き合って過ごしていた私は、かなり強い情念に押されて新幹線に乗って軽井沢へ出かけた。本を書く仕事は本当に人を縛り付ける。文字数で14万字。それを準備なしにいきなり書き始めて、書きながら構想を練り、走っては考えている有態だから、指向は一点に集中し,動きを止める。どうしても軽井沢へ行きたいと思う気持ちは子どもの情念に似ていた。もう冬は終わっているはずだが今年はいつもより春が遅いという友からの情報だった。
そのとおりであった。高い梢のうえに割いているこぶしはようやく蕾を開いている感じであったし、桜はまだであった。南に突き出している落葉松の枝からは新芽が出ているものの広葉樹の森はまだ枯れ木のようであった。GWが過ぎないと軽井沢の春は来ない。
でもそうした心地よさを求めるのは人間の都合であり、森は一刻ごとに姿を変容しているそのタイムスライスしたわずかな一場面を見ているに過ぎない。ここに住まなければわからないことだ。
滞在時間は食事の時間も含めて2時間弱であった。私は夕方に打ち合わせに備えて戻らなければいけなかった。運良く早く到着する新幹線に乗れたので軽井沢駅から東京駅まで1時間少々で到着した。それでも私は十分であった。軽井沢の友とも会わず、久しぶりに訪れたこの地を懐かしくいつくしみ、ゆっくりと歩いた。