週末は両日とも仕事がびっちりと入っていた。ところが土曜日の打ち合わせはシステム会社の準備がよくて、一日掛るはずが午前中で終わった。仲のよいSEは、これから会社に出て残りをやると戻ってしまった。時計を見ると正午を回ったばかりだ。ちょうどクルマで出勤している。台風12号はゆっくりだ。マピオンの軽井沢天気予報を見ると午後から1時間に10ミリ程度の雨が降ると書いてある。台風が来るから行楽客は少ないだろうと踏んだ私は、すぐに軽井沢へ行こうと思い立った。
碓氷峠あたりで濃霧が出てきた。軽井沢は黒い雲が垂れ下がり今にも雨が降りそうな天気であった。遅めのランチを、ジャムのさわやが経営する「こどう」で食べた。つるやに寄ったがもうブルーベリーは姿を消し、かわりに葡萄や遅い桃や、プルーンがたくさんあった。
それから好きな散歩道をゆっくりと流し、離山のふもと、泉の里にある然林庵でコーヒーを飲んだ。離山に住むサルの群れがでてきて町の役人が、BB弾でサルを威嚇していた。離れ山に戻そうとしているのだがどうにもならない。道路の先にいるオレンジ色のベストを着た人がモンキーウオッチャーである。
軽井沢には3時間ほどいて、人とも話した。そして午後7時過ぎには家に戻った。私にとって軽井沢の森は故郷のようなものだ。ときおりこうしてこの地にいるだけで心が安らいでくる。高速道路もまったく空いていた。バケツの水をかけられたような雨にもぶつかったが、車中にいる私が濡れるわけではなかった。
私はコーヒーを飲みながら、今はあのうすばしろ蝶はこの世に存在しないのだと思った。人間は何十年も存在し続けるが、蝶の形は一瞬しか地上に存在しない。しかし卵、幼虫、蛹と変態し、私たちの目に入らないところでうすばしろの生命は生き続けている。
うすばしろ蝶と成虫に名前を付け整理したのは人間であって、卵、幼虫、蛹、成虫に至る一連の輪廻はそこら中で繰り広げられている。人間だけが、他の生命と比較してやや優れた脳を持ったがために他の生き物とは特別のコースを歩んでいる。
金曜日に著者献本分が私の手元に届いた。この本で表紙のチェックをして、よければ印刷所に回る。書店には8日に配本される。手前は中刷りと呼ばれるもの。
この本の区切りが軽井沢へ行こうと思い立たせた動機である。世界初ともいえる新しいシステム「i-BREA」の立ち上げ業務がこれから始まる。営業活動を変えてしまう新しい可能性を秘めたものだ。この創案から完成に今年に入ってから今までを集中した。週末はほとんど休まず集中した。酒もほとんど飲まずに集中した。
私は然林庵でコーヒーを飲みながら、もしも昆虫のように短期間で成人生命が終わってしまったら、人類は進化しなかった。他の生き物と比して長い期間を成人として生きていたからこそ、そして個の命は尽きても、残していった成果物は引き継がれたから、人類は進化を遂げたのだと考えていた。