クルマが初の車検を終えて戻ってきたのはよいのだけれど、HD上に格納された好きな音楽がめちゃくちゃになっていた。
いまのクルマはコンピュータで制御しているので、サービス部門は、コンピュータと接続しオンライン化する。クルマのデータをコンピュータに吸い上げて診断をする途中で、HD上にある音楽データも吸い上げてしまうのだろうか。
データをクルマに戻す時に、これまで吸い上げたよそのクルマの音楽を、私のクルマのHD上に書き換えてしまうというトラブルがあった。
私は厳選した70枚のCDをインストールしているが、その音楽データに、ディラーのコンピュータにごみとしてたまっていた他人の音楽データがシャッフルで書き込まれていたのだ。ものすごい数で・・・・・。
わかりやすく言うとショパンのノクターン全集を聴こうと選曲すると、いきなり浜崎あゆみが出てくる。パスすると外国のロックが流れてくる。そして次にショパンが流れ、次はサラ・ブライトマンのハーレムが出てくる感じなのだ。これは誰だって耐えられない。
それが正確にいうと71枚のCD全部がそうなっている。私からすれば音楽が音楽で汚染された感じなのだ。
さらに、多く聴いた曲が上位に来るTOP50は、私の持っていないCDにすべて書き換えられていて、こうなると私のクルマは好きな音楽が好きでない音楽によって占領されてしまったことになる。
一人でクルマに乗る時は、必ず音楽を聴く。自分の小さな空間は、自分の個室である。そこで好きな音楽を聴いて過ごせることは至福の時なのだが、この時を奪われたことになる。
ディラーの担当営業にクレームをつけると、「たまにあるんです。原因が分かっていません。一つひとつ削除するしかないです。その方法は」と、説明をするのだが、彼の言い方は技術的なことではないので大したことではないという位置づけである。
しかし、こちらからすれば好きな空間を奪われたことになる。技術的なことよりもっとことは重大なのである。
さて、それでは削除するしかないと始めたがこれが大変である。
71枚のCDにそれぞれ10曲はいっていると、単純計算で700曲が入っている。その3倍か4倍かの占領者がいると予測できるぐらい汚染されているのだ。3倍として2000曲近いエイリアンを探し出し、削除しなければいけない。
英語バージョンに日本語のタイトルが入っていればこいつは占領だとわかる。その逆もそうだ。ところが、英語バージョンに英語バージョンが潜入していると、聴かないと、こいつがエイリアンかどうかわからない。
機械の操作としては、削除する曲を特定し、ボタンを押す。続いて別なところからオプションを押して削除するを選択する。それから削除ボタンを押す。これで一曲が削除される。
私は20曲くらい削除してやめてしまった。これは数日かかるぞ。するとどうだろう。途端に運転の興味が消えうせてきたのである。
私は好きな音楽が好きでない音楽で占領されたという経験を初めてした。このまま放置しておけば、私はクルマの室内空間で、好きな音楽に浸れるという楽しみが奪われることで、クルマを運転することの楽しみさえも捨て去ってしまうという脳の不思議さを体験した。
同時に音楽が持つ不思議さも体験した。その日の気分で音楽は選択される。多様なジャンルの曲をシャッフルで聴くことは耐えられない。持続したら人間はきっと発狂するだろうな。
そんなことを思いながら、ハンドルを握って今日もまた出社したのであった。