科学誌「Frontiers in Zoolgy」によるとチェコの生命科学大学の研究者は2年間、37品種70匹 述べ1893回の排便と5582回の排尿における体軸を測定した結果、犬は自分の体を南北に向けることを好んでいることが分かったそうだ。排便の時、犬がくるくる回るのは体の軸を地磁気軸に添わせるためではなかろうかという説も出ていた。
ここで犬がなぜ地磁気をわかるのかという野暮な疑問は持たない。人間が巨大な脳を持ったがゆえに生態系の頂点にあると思いがちだが、犬の方がはるかに優れた感覚を持っている。
いまから35年前、会社勤務時代に上司の専務から、「人間は北枕がいいのだ」と、地磁気軸に沿って、北に枕を置いて寝ることを勧められた。
その時代にはネットもなく、調べることも容易にはできず、たまたま家のつくりから北枕で寝ていたので、否定もせず、「ああそうですか」と言っただけで深い意味も考えなかった。
その後にネットで北枕を調べてみると、涅槃経に、釈迦が入滅した時、頭を北にして顔を西に向けていたと書いてあり、葬式のルールを決める時の基準になったのだろうと思った。後世の教団がつくったルールであったわけだ。風水でも北枕を奨めているが、理由は断定的で科学性が乏しく定かではない。
我々が普通に持っている、いまやネットで無料ダウンロードできる羅針盤は常に北を方位として指しているが、両極には磁場があってこの磁場は偏角と呼ばれている 角度だけずれていることが分かっている。地磁気北極は、2014年は緯度経度が80.2Nと72.5Wであることが分かった。磁北極は緯度経度が 85.9N と149.0Wであることが分かった。
北枕は羅針が指す北(地磁気北極)のことであり、磁場のN極(磁北極)を指しているものではない。
上記の数字の比較から日本の磁北極は西に大きくずれていることが分かる。この理由を調べたところシベリアのバイカル湖周辺に大きな磁場があり、その影響を受けて磁北極が西に偏っているらしい。
チェコ生命科学大学の研究では犬は磁北極を向いて排便をすることが分かっている。北枕は日本では羅針盤の北であって、方便としては地磁気軸に沿って頭を向けることが良いと理屈が付けられているに過ぎないと思い至った。
住宅がいまほど断熱性能がなく窓も一重ガラスであったから、太陽の光が入らないし寒くなると一段と寒い部屋になる、そのため冷気が満ちている住宅の北側は、暖気を外に逃げさせないように、例えば押入れを置いたり床の間を配置したりして窓をつけない設計をしていたに違いない。北枕がよく眠れるというのは、朝に日の光が部屋に入らないことが理由であったと思われる。それだけのことだと思う。釈迦が北枕で顔を西に向けたと涅槃経にあっても、それが事実である照明は誰一人できない。
以下の話は司馬遼太郎説である。司馬遼太郎の文章ではない。
「三蔵法師はインドに行ってさまざまなお経を中国に持ち帰ったとされているが、釈迦が死んだあとで弟子たちは仏教の生き残りを掛けて様々な宗教を仏教に取り入れた。帝釈天など戦闘的な仏は、仏を守る神様と言われているが、なぜ偉大な力を持つ仏を守らなければいけないのだろう。これらは三蔵法師が手当たり次第に持ち込んだ多くの宗教(ヒンズー教など)経典を中国が整理するうえでこじつけてしまった仏教以外の神様である。すでに釈迦が死んだ直後に、仏教は変節をしてしまったわけである。」
キリストなきキリスト教が、釈迦なき仏教が、つまりはあらゆるその後の教団宗教が何をしてきたかは世界史が如実に物語っている。
犬は磁北極を向いて排便をすると書かれたネットのニュースから北枕のことを思い至り、ちょっと考えてみた次第である。