夜中に、扉をそっと開けて庭を覗いた。深々とした寒さのなかに雪が降り積もっている。
なぜだろうか。三好達治の二行詩「雪」を口ずさんだ。
雪が降る夜は、静かだ。静かすぎて私は目覚めた。部屋は暗いので、手元のスイッチを押してランプを付けた。それからスマホを探して懐中電灯アプリを触った。それから懐中電灯の光を頼りにして家の中を歩いて庭につながる扉を少しだけ開いた。
扉の間から寒風が入ってきた。私は身震いをパジャマの襟についている一番上のボタンをはめた。そうしてから庭を覗くと庭の絵図が浮かび上がってきた。
そこで、突然のように大好きな三好達治の詩が出てきた。手持ちのiPhoneXをカメラに変えて2倍望遠にしてから一枚だけこの風景を写真に焼き付けた。
ベッドに戻ってから、北国で農業をやり始めた知友のことを思い浮かべた。彼は一流大学を出て大会社に入り、それから外国の大学でMBAを取得した。そのあとは世界的に著名な外国企業で勤務を続けた。彼が勤務する企業で顧客戦略を導入することになり、私は彼に出会った。約18年前になる。
それからお互いの心を通わせた交流があった。
その彼が、法人農業企業に勤め直して単身で北国に引っ越した。彼は関西生まれで、北国の寒さを経験していないはずだ。さぞかし北国の冬は寒かろうと思った。
私は陣中見舞いに行くことにした。少し春めいてきたころに、春になると彼の仕事は忙しくなるから春めいた冬の間がよいと思った。メールでスケジュールを調整し、日取りを決めた。
そんな記憶が三好達治の「雪」を想起させたのだろう。
雪
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。