洋画家、島田章三画伯の「チューリップの頃」を購入した。島田章三画伯は、洋画界のエリートコースを歩んだ画家だ。欧州でピカソ等の作品からキュビズムの影響を受けた。東京芸術大学の卒業制作作品で大橋賞を受賞した。後年は県立愛知芸術大学の学長となり愛知芸術文化センター総長に就任。2016年に逝去。83歳。正四位に叙されたという経歴である。
キュビズムに日本語をつけることが自己の課題と言っていたが、島田画伯はそれを「カタチビト」と命名した。
私の勝手な想像だが、アシンメトリー(非対称)を好んで画風にしていたようだ。この作品も髪の分け方、顔に当たる光の明暗、衣服、背景、チューリップの数、花瓶まで、すべてがアシンメトリーで配置されている。
島田画伯の作品レベルとしては、並であろう。素晴らしい作品をたくさん残している。しかし、並であっても、売り絵と思われないのは、島田画伯が自らの作風から一歩たりともズレないで、手抜きをしていないからである。むしろ力作よりも、力が入っていない作品の方が、こちらの心を動かさないで構えないで見ることができるのでほっとする。
この作品は、6号である。
島田章三画伯の作品はたまにオークションに出品される。下の絵は出品中の作品である。この絵もアシンメトリーで描かれている。サイズは6号である。
時代は移り、作品と一緒に画家の名前も忘れられる。洋画は輸入品だから日本人には根付かない。欧州では、小さな町にも美術館があって、良い絵は識別され公的に救済される仕組みが自然と出来上がっている。日本は遺品処理業者に渡されておしまいである。
日本では、住まいから床の間が無くなって、掛け軸の需要が無くなった。やがて絵画も同じ道筋をたどることになるだろう。だが、私は生まれてから一度も油彩画を見たことがない奄美大島の学校に寄贈を続けている。これが空間芸術を長く保存し、清掃業者の手に手渡さないための最高の選択かもしれないとしみじみ思う今日この頃である。
私は「チューリップの頃」を介して、若いころの思い出を引き出すことができる。しばらくは書斎に置いて、戻らぬ過去をふりかえろう。