奈良大安寺は、日本初めての国立寺院である。天平時代の仏さまが一堂に揃って東京の上野にやってきた。信仰の対象として存在する仏像が、今や美の対象として博物館に登場しているのは、美に仏像が加わっているからである。
しかしこの仏さまは人間の顔をしている。木彫りで一本の木材を掘る職人は仏の顔を知らないから、人間の顔を掘ったと考えて普通だが彫が浅く、寒冷地の人をモデルにし,たとしか思えない。
それにしても宗教の押しつけさがないことが一番いい。天平時代には、彫る人も清い心を持っていたのかもしれない。
しかし、大安寺は国立の寺院で、時の天皇が仏教を利用して広く世を統一していこうと企んで、道具として造成した寺院である。怖い不動明王が出てくると思ったら素朴な仏さまの美しさに驚いた。