台湾は中華料理の本場中の本場。中国でも香港でもない。いまや世界の中華料理で頂点にあるのが台湾である。このホテルが五星を誇るグランドフォルモサリージェント。読みやすく書くとこうなる。グランド・フォルモサ・リージェント。大航海時代にポルトガルの船が台湾の島並みを見て、フォルモサ(麗しの島)と呼んだとかで、フォルモサは台湾を語る代名詞になっている。このホテルは中国名を晶華酒店という。誰もが入れるからにぎやかなホテルでもある。
このホテルの一角に蘭亭がある。日本では中華料理店のイメージは横浜中華街に代表されるが、台湾の中華料理は実に豊かである。
店内は何料理でもマッチするようにできているのか、こだわりをもってヌーベル・シノアにチャレンジしたのかは定かではないが中華料理のフランス料理様式になっていることは間違いない。
まずはアラカルトのメニューを見ていただこう。私はもう口の中に押し込まれても受け付けないくらいの状態になっている。知人は初めての台湾で何でも吸収して帰ろうとしているから、今日はこれで4食目である。このあと食休みをしてから夜市のおいしい餃子を食べようとしている。知人はここの料理が特別うまいのだと言う。もちろんガイドブックの受け売りである。
今日2回目の小包籠。トホホ状態。
中華料理も変わったものですねと、知人が言った。そうですねと私が答えた。本当にこれから餃子を食べにいくのですかと私が訊ねた。そのつもりですが何か・・・・と、知人が答えた。なかなか絶品の餃子らしいですよと追い討ちをかけてきた。
よく入りますね。私が言うとああ、そういう意味ですか。おなかが一杯なら無理して食べなくとも良いのですが。私は挑戦しようと思いますと話を結んだ。
小田実が書いた「何でも見てやろう」ではないが、知人はまさに何でも見てやろう・何でも食べてやろうを地で行った人であった。ものすごい好奇心、ものすごいバイタリティの人。こういうおばさんは何度も見たことがあるが、これほどのおじさんははじめてであった。学生時代の後輩だから若い頃は知っていたがここまでおじさんに深化しているとは知らなかった。
服部さんは案外食が細いのですねと言われた時はびっくりした。いえ、私は健啖家ですねとよく言われるのですが、それはきれいな言葉で、実は喰い意地が張っているだけなのですよ。ただ今回は食べる回数が多いですから少しだけ食思不振です。
知人のおかげで2泊3日の台湾旅行は実質3泊4日分くらい動き、食べたことになった。意思さえあれば2泊でずいぶんといろいろなことを見聞きできますねと知人に言った。そうですね。でも私はガイドブックを見ると、見てないところだらけです。今度は家内を連れて見て回ります。おかげで台湾に連れてきてもらってよかったと知人はお世辞を言った。
いえ、連れて来てもらったのは私のほうです。私はそれに答えた。心底そう思ったからである。外に出ると夕闇が迫っていた。しばし休んで夜市に出かけた。一人前でいいんじゃないですかと私は声を掛けた。友人もそれに従った。大きな餃子が幾つも入った皿がきた。
翌日は夕方便で帰国をした。それまで市内観光をしてまた食べた。私の旅行パターンではありえない旅行であった。私の旅の最終日は何しないで時間を過ごす。飛行機から見る西の空は夕焼けで染まっていた。沖縄や奄美大島から帰る途中に見るあの夕焼けであった。