太平洋岸に防潮堤をつくる「人類の英知」は、未来の日本人にとてつもない愚の遺産を残すことになる。万里の長城を愚かさの遺産というが、科学が発達した時代に、防潮堤の建設は、なんとも言い難い怒りが込み上げる。
もちろん反対をしている人はたくさんいるのだが、行政は憑物にとり着かれたように強引に推し進めている。
美しい国日本は、かつてはテトラポットで美しい砂浜を失い、今度は刑務所の塀より高いコンクリートの塊を立てて美しい海辺の風景を失うことになる。
日本にある無数の島々につくった防潮堤が、予想もつかない場所で塩害を産み、降った雨は防潮堤に阻まれ、海に戻れず、防潮堤の足元は水が溜まり、ごみも溜まり、不潔な状態が続いていることを知っている。
万一、防潮堤を超える津波を受けたら、海水は防潮堤に阻まれ海に戻れず、引き潮は一点に集中し、急流になって二次災害が起こるのは目に見えている。
そもそも東北大震災は1000年に一度の出来事だと言っていた。コンクリート防潮堤はコンクリートと中に入れる鉄筋とコンクリートで耐力を保っている。
コンクリートは風化する。風化すれば鉄筋はさびる。さびれば膨張し、コンクリートと鉄筋の間に空間ができ、耐力は著しく劣化する。防潮堤はいつも塩分をたっぷり含んだ波風にあたっている。もし風化を100年とみて、この防潮堤をこれから日本人はとてつもないお金をかけて作り、100年に一回、風化と共につくり直し続けるのか。おそらくどこかの時代でこんなばかばかしいものをつくるのはやめようと声が出るのに違いない。2度目からは、壊す費用と壊したものをどこかへ運ぶ費用と、保管費用と、更地にする費用と、またその上に防潮堤をつくる費用と、きっと3倍近いお金がかかる。無用の長物に対してだ。
防潮堤の予算計画は8000億円。防潮堤は高さ14.5メートル。
自然を敬い、自然に寄り添って生きてきた民族が、自然と対峙する建造物をつくる。その結果地球の海底から山頂まで連鎖している植物体系は壊れる。海風は防潮堤にあたり、上昇し、とんでもない所に塩害をつくる。田畑の農産物が生育しないで枯れる現象だ。
子孫に負債を残さない!復興増税!の名のもとに大自然を敵に回した負の遺産を憑物に付かれたように進めている。
この民族は視野が狭くなり、見境もなく信じて集中する癖がある。台風による洞爺丸沈没事件が起きたら青函トンネルをつくった。宇高連絡船が台風で沈没したら本州と四国に4本の橋をつくった。
だいぶ前の資料だが世界に土木建築業者は150万社あり、日本にはなんと50万社あるという事実。結局は国債を発行し、道路や箱モノをつくり続けてきたことによって日本の構造が土建屋を増大させる結果になった。
こうした構造を治すには痛みを伴う。防潮堤は土木建築業をとりまく地方企業の復興に役立つことで地方自治体も防潮堤に飛び乗ったのだろう。
自然を打ち勝つために文明は発達した。しかし防潮堤は文明ではない。いまや四国と本州に掛けた4本の橋が、とてつもなく費用が掛かる手におえない橋となっているが、それとは比較にならないほど防潮堤は、愚の遺産になる。
津波が100年に一度か1000年に一度か未来を予測することはできないけれど、高さ14.5メートルの壁の内側で、いつでもコンクリートの壁を見て生きていかなければならない住民の日常はどうなるのか。
800,000,000,000円が1,000,000,000,000円を軽く越すことが予測されるが、風化した時に立て替えるとしたら軽く3,000,000,000,000円のお金がかかる。これこそが愚の遺産である。
地元も納税者も、もっと声を挙げなければいけないと思う。