集中して三週連続で週末も含めて三食ともカレーライスだったとしたら、口に押し込もうと入らないだろう。きっと。集中して三週を単行本の執筆に当った三連休の最終日、私はPCに向かったが脳が原稿を受け付けなくなった。月曜日には入稿の約束日だったのでなんとか読み返して修正を図ろうとしたが、残念ながら体が拒否をした。ちょうど知友から遊びに来いとメールも入っていたし、と言い訳をしながら今年初めての軽井沢へ行くことに決めた。仕事を放り投げてなんだけれども、まあ、仕方ないかという気分である。
さすがにクルマで行く気にはなれずに新幹線に乗った。大宮の次は軽井沢。乗って40分で軽井沢の駅に着く。今日は雨の天気予報であったが、雨は降らず曇天であった。駅の気温は7℃。先週は20℃を超えた日もあったらしく、おかしな陽気である。
南口をのぞいて見たらアウトレットモールの駐車場が満杯だ。いまはセールをやっているらしい。いくらセールをやるからって軽井沢まで買いに来るのかと思いつつも、自分のことを考えると他人を笑えない。
スキー場はわずかに残っている雪の斜面に人が溢れているのが見える。名残のスキーを楽しんでいるのかなと思う反面、雪のないところをどう歩いているのかと思うと気の毒な気がする。
こちらは気分転換の一人旅だから目的などあるわけなく、といってぶらぶらしても意味がないので軽井沢の知友に電話をかけてクルマで迎いに来てもらった。
雲は垂れ下がり、浅間の姿は見えないが風の吹きようで雲が切れてチラッと姿を見せた浅間山も雪はわずかに残っているだけで駅南にある西武のスキー場の景色とよく似ている。R18号の上りはすごいラッシュで、なぜに芽吹きなどない初春の軽井沢に来るのかとあきれ返ってみても、わが身を振り返ればとても笑うことはできない。
別荘ツアーでもしようと知友は言った。あれが白洲次郎の別荘。隣りがテニスの誰々。あれが正田家。知友は詳しい。案外ミーハーだねと笑ったら、突然来るんだからこんなサービスしかできないさと言われてそりゃあそうだと笑う。
そのうちまじめな顔をして、「何かあったのか」と聞いてきたから「カレーライスの食べすぎで気分転換をしないと脳が壊れてしまいそうだ」と応える。知友に意味が分かるわけもなく、「それってどういう意味?」と質問があった。私はかいつまんでわけを話した。「それなら温泉に行こう。トンボで好いか」と、クルマは18号バイパスから南原通りをR18号に向けてハンドルを切っている。
トンボの湯は温泉の質が実によい。昔は酸度の高い草津の湯で傷めた肌をここ星野温泉で直したらしい。入るたびにいい湯だと思い、知友に「今日は悪かったな」と素直な気持ちで心を伝える。「いや、俺もやることないし気分転換になったよ、お陰で」と言われるとうそでも嬉しい。
帰路を甘く見たのがいけなかった。新幹線の切符が取れるのは3時間先。今日は三連休の最終日なのだ。知友とも別れてしまっているから「駅にいるからもう一度迎えに来い」ともいえず、別の知友とも思ったが、これ以上迷惑は掛けられないのでやめにした。それからぼんやりと煙る離れ山を駅から眺める。普通なら離山の左に浅間もくっきり見えるのだがこの曇天では見えるはずもなく、といって見えるまで待つこともないので駅の待合室に入ろうと思った瞬間にちらりと見えた。いそいでシャッターを切ってそれから待合室に入る。
そうだ。念のために原稿を印刷して持ってきたのだと思い出して、木のベンチに腰掛けて原稿を取り出した。なんと原稿拒否症がうそのようにすらすら頭に入るではないか。新幹線を待っている間の2時間で今日予定していた読み直しが終わってしまったのである。もちろん赤字部分はPCに向かわなければいけないが、それにしても三週連続三食カレーライスを食べ続けた気分はどこかへ飛んで行ってしまった。予定を終わらせた安堵で、帰りは大宮駅で降りるはずが上野駅まで寝過ごしてしまった。おこなうべきは気分転換だと思いつつも、なんとも人騒がせな一日であった。反省!