【2010.11.12配信】
ブレアコンサルティングの服部です。
タイトルのFとは、フリークエンシーで、ここでは購入頻度のことです。
10年ほど前、ブライアンウルフというコンサルタントがスーパーマーケットのFSPを考え出し、FSPの本「顧客識別マーケティング」がダイヤモンド社から出版されました。
FSPとは「フリークエンシー・ショッパーズ・プログラム」の頭文字で、和訳をすれば頻度の高い顧客を優遇するプログラムです。
当時はワン・トゥ・ワン・マーケティングにITベンダーが飛びついていましたが、中身は何もなく、ほかに何かないだろうかとITベンダーはシステムになる理論を探しておりました。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングを書いたドンペパーズも何度も来日をしましたが、概念論であってシステムには結びつきませんでした。10年前はアメリカのマーケティング情報を吸収しようとするエネルギーが日本には残っておりました。
FSPは頻度の高い顧客を優遇する考え方で、ブライアンウルフが言うには、高頻度の顧客はレジでシステム的に捕捉して価格を自動的に割引するシステムプログラムです。売り場では80円と表示されていたものが高頻度客と識別すると1割引をしてレジで72円に自動値引きをするというシステムのことです。
ブライアンウルフはITベンダーの招きで何度か来日して講演をやりました。ITベンダーは彼が言うFSPシステムを構築しました。
私は当時、アメリカの流通業界を年に2回ほど視察をしていた時期でした。ニューヨークのファクトリーアウトレットや、ロスのサースコーストプラザ、カナダのウエストエドモントンショッピングモールなど大型ショッピングモールをよく視察したものです。
国土面積の広いアメリカやカナダでは個店の競争ではなく、ショッピングモール間の販促競争になります。顧客はどちらのショッピングモールに行くかと言う判断を、どちらのショッピングモールが得かと思わせる競争になりますから、FSPはアメリカではそれなりに効果があったプログラムと言うことになります。購入頻度が高ければ購入価格が安くなって得になるプログラムですから、いつも購入している顧客にとっては得なわけです。
私は、ブライアンウルフと一緒にセミナーの講師をやりました。あるときは司会をやって欲しいと急に言われたこともあります。彼とはよく一緒に食事をしました。来日した時は交流が頻繁にありました。書庫にある彼の著書「顧客識別マーケティング」には彼のサインが入っています。
しかし私は彼に、「日本ではあなたの考えは導入されないといいました。なぜなら日本はアメリカのような大型ショッピングセンターができていない。せいぜい地域密着型食品スーパーで、徒歩圏内にライバル店は幾つもある。あの店は一部の人だけ安くなるんですってうわさが立ったら、FSPに引っかからない顧客はライバル店に移ってしまいますよ」と言う論理であったと記憶しています。
ブライアンウルフは、ナンセンスと両手を挙げて肩をすくめていましたが、懸命なITベンダーの努力と裏腹にFSPは導入されませんでした。私の言う通りになったのです。
システム投資に膨大はお金を投じたITベンダーは、挽回するべくFSPを当時流行っていたスタンプ制度のITバージョンに切り替えました。これがポイント制度の始まりです。
ポイントを発行すると企業にとっては負債になります。企業は、初めにポイント導入を躊躇したのですが、ライバルが始めると自分もやらざるを得なくなる麻薬効果があります。ということでそれから10年近く経過した今、ポイントはどこでもポイントとなり、生活に密着したものになっていますが企業は大きな負担を抱えていることは事実です。
ポイントも頻度の高い顧客を優遇するプログラムと言うことですが、そんなことはシステムからは見受けることはできません。本日いくらポイント負債が発生して、いくらのポイント負債を抱えている。本日いくらのポイント使用が発生し、いくら負債が減っていくら費用が増えたと言う簿記仕訳がわかるのが精一杯です。
さて、ここで頻度の高い顧客をシステムで抽出しDMを送るとヒット率が高いと言うことになり、FSPが流通業では頻度の高い顧客にDMを送ると効果が高いプログラムと言うような解釈をしています。
通販業のベテランに話を聴くと、頻度の高い顧客は通販では敏感に反応するので売上が欲しい時にはどうしても頻度の高い顧客に手を出すが、これを続けると顧客名簿はガタガタになって、以降無反応な顧客が圧倒的に増えてどうにもならなくなると言います。頻度の高い顧客に手を出すと安易だがそれは極めて危険な選択をしたことになると言うわけです。
あれから10年、時代は激変し顧客はネットで自宅に居ながらして商品を購入することができます。顧客が書いた評価を読んで評価の高い商品を選択してから価格ドットコムのような最安値の店を探して評価の高い商品を最安値で購入する手法も身につけています。
そんな時代の変化が急速に進んでいます。小売業は今から5年後、10年後を見越して次のCRM手法を選択しなければならないのです。
いまだにRFM分析やABC分析で顧客を抽出し、DMを送り続けている流通業が少なくありません。さらにそのような手法でやっている人たちから、うちはFSPの考えでCRMを導入していると話を聴いて、FSP手法とは頻度の高い顧客にだけ焦点を絞ってDMを出す手法と聴くと、やがて名簿はガタガタになって反応がない顧客リストになってしまう危険性を知っているのかと空恐ろしくなります。
顧客を特定できず、したがって育成することもできず、PDCAが一切回らず、場当たりでDMやメールをだし続ける。これが小売業の展開しているCRMの実像です。
顧客が購入前に、使用後の商品評価を調べ、最安値情報を調べることができるいま、時代をいかに先回りするかと言う感覚がない小売業はきっと顧客から見放されていくと思います。