セミは、いつだって、どいつだって、天を向いて死ぬ。
今どきのわがベランダには、仰向けになったセミの死がいがある。
さあ、あとは私の体を好きなようにしろと言わんばかりだ。
どいつもこいつも腕組みをして啖呵を切っている。
お前にはもう一仕事が残っている
命も魂もなくなった抜け殻は
お前が生きていたことの証明には必要だろうが
そんなことは必要ないことだ。人間でも・・・。
私はセミの死がいをつまんで庭に放り投げる。
死んだばかりのセミは筋肉が残っていて急落下する。
そう、お前は死んだばかりの方が役に立つのだ。
翅を動かす筋肉やわずかな内臓が残っている方がよいのだ。
セミと私とは流れゆく時間と空間が違っている。
どちらが優れているかは分からない。
ただ、こいつは生態系の一員として生きている。
私も目に見えない虫やバクテリアにセミを放り投げる。
セミは生物連鎖の役割を果たしている。
人間は自然の一員として知的に生きていない。
だから人間は汚れていく。
だから地球は汚れが積み重なる。
私は今日で26515日生きている。
セミは6年を地中で生きて、地上にでると10日で死ぬ。
生きる場は地中で、地上は子をつくり子と共に、生まれた場所に還る場だ。
私は生涯現役を・・・、どうも・・・、できる気がしている。
三階のベランダから地上に落下したセミを探したが見えなかった。もうバクテリヤとたくさんの虫が集まって啄ばんでいることだろうよ。私は、昼休みにセミの葬式をやって還るべき本来の場所に戻し、また仕事に戻る。わずかな休み時間で。